No.1849 沖縄旅行の裏話 〜クーラーとの格闘〜

寒くなってきたから、暑い話をしよう。

今年の夏に沖縄の竹富島へ行った時、
古い民宿だったこともあり、
クーラーが昭和式のものだった。

しかも、1時間100円のコイン式。
風通しがいい島の夜とはいえ、
湿度の高さを考えても窓を開けて寝るのは寝苦しい。

息子が寝つけなかってもかわいそうなので、
就寝前に朝までの時間を数えて100円を入れ、
灯りを消した。

数分後。

僕は真っ暗な部屋で苦悶の表情を浮かべていた。

 「おかしい…、なぜかやたらと暑い。
  汗が止まらない、というか、
  さっきよりも汗がふき出ているじゃないか…」

嫁と息子は疲れていたのか、
すでに寝息を立てていたんだけど、
どう考えても部屋はサウナ状態になりつつあった。
こうなったら、疑うべきはもちろんクーラーである。

携帯電話の灯りを頼りに
クーラーのそばに近づいてみると、
ちゃんと作動はしているようで風も出ていた。
でも、その風が少し生ぬるかった。

「冷たくなるまでに時間がかかるのかな?」と思い、
もう一度床についてはみたけれど、
その後、いくら待ってみても部屋はいっこうに涼しくならない…。

ふき出る汗とともに、身体から奪われ続ける水分。

 「このままじゃ、家族全員脱水症状になってしまう!」

危機感を感じた僕は、布団から飛び起きて
携帯電話の灯りを頼りにクーラーを点検し始めた。

 「コインはちゃんと入っている。風も出ている。
  操作も間違っていない。なのに…、なぜだ!?」

何度か電源をつけたり切ったりしてみたけど、
まったく原因は分からなかった。

真夏の部屋を密室にしては危ないので、
嫁と息子のために窓を開けて風を入れ、とりあえず応急処置。
真っ暗の部屋の中、汗をだらだら流しながらクーラーと格闘した。

それから、およそ2時間後。

あいかわらず原因はわからず、
あまりに暑さに僕は気力と体力を奪われていた。

嫁と息子も寝苦しそうに唸り始めたので、
「くそっ!」と思いクーラーを叩いた瞬間、奇跡が起きた。
送風口から、それまで感じたことのないような
“爽やかな冷風”が出始めたのだ。

あの風の心地よさは、今でも忘れない。
まさに、命を救う風だった。
こうして、僕はようやく無事眠りについた。

翌朝。

朝日の光で目が覚めると、
嫁と息子のはしゃぎ声が聞こえた。

そう、彼らは知らないのだ。
前の夜に、どんな格闘劇があったかを。
それでいい。それでいいのだ。

その後、僕は汗にまみれたTシャツを着替え、
何食わぬ顔で息子と散歩に出かけた。

一仕事終えて、
一般人に戻ったスーパーマンのように。

楽しく終わった沖縄旅行の裏に、
主の涙ぐましい努力があったことをここに記しておく。