No.2632 目が死んだ大人には絶対にならない

このエントリーを Google ブックマーク に追加
LINEで送る
[`evernote` not found]

容姿を誉められることは少ない僕だけど、
一度だけ「目」を誉められたことがある。

今から15年ほど前、
就職活動中のことだった。

とある広告代理店の面接を受けていた僕は、
1次、2次、3次試験を通過し、
最終面接でその会社の社長さんと会うことになった。

ビルに着くなり人事担当に
社長室まで案内されて、
重そうな扉を開けたら
ダンディな社長さんが椅子に座っていた。



 「やぁ、君か。噂のHくんは」



    「はじめまして。今日はよろしくお願いします」



当時、まだ学生だった僕にとって
親ほど離れた目上の人と一対一で話すことなど
初めてのことだったと思う。

面接は好きだったから緊張はしなかったけど、
「どんな話が始まるのかな…?」とドキドキした。


それから最初の30秒ぐらい、
社長さんは何も話さず、
男前な目でじっと僕を見ていた。

一瞬「え? 何? この人ホモ?」とか思ったけど、
目をそらしたら負けだと思ったので、
僕もじっと見つめ続ける。

すると、社長さんが
深くソファに腰掛けながら
目を細めてこう言った。



 「君、いい目をしているね」



    「へ?」



 「決めたよ。うちの会社に来てくれないか?」



その瞬間はワケが分からなかったけど、
どうやら内定ということらしかった。

結局その会社には行かなかったけど、
目だけで選ばれたことの意味が分からず、
ずっと胸に引っ掛かっていた。


あれから時も経ち、
自分もそれなりの社会人になった今になって、
ようやく社長さんの感覚がわかるようになった。

目が濁っている人、死んでいる人、
遠くを見つめている人、
何かをしっかり捉えている人…etc.。

その人がどんな姿勢で生きている人か、
目を見れば本当によく分かるね。


疲れて家に帰った時は、
洗面台で必ず自分の目を見る。

ダメな時は本当にダメな目をしているけれど、
そんな時は社長さんの言葉を思い出して、
ぐっと目に力を入れるようにしている。

偶然再会したら、もう一度、
「まだいい目をしているね」と言われてみたいから。