No.2797 沖縄に降ったやさしい雪

あまりイメージはないかもしれないけれど、
沖縄にも田んぼはある。
本州ほどではないけれど、一応あるのだ。

そしてもう1つ。
イメージはないだろうけど、
沖縄でも「雪」が降ったことがある。
本当の雪ではないけれど、とても、やさしい雪が。

今から20年前のこと。

その年は全国的に冷害に悩まされていて、
東北、特に、岩手県の米は
壊滅的なダメージを受けていた。

米作りは種もみを蒔いて
苗を育てることから始まるけれど、
岩手県の種もみは、本当にわずかしか
残っていなかったらしく、
まさに県産米絶滅の危機だったらしい。

 「このままでは岩手の米は全滅してしまう…。
  せめてこの種もみだけは死なせてはならない」

そう考えた岩手県の農家は
冷害の影響を受けずに種もみを育てられる
温暖な場所を全国の中で探した結果、
はるか南の地にたどりついた。

そう、それが沖縄県の石垣島だった。

岩手県の事情を知った石垣島の農家は、
わずかしかない自分たちの田んぼを
快く岩手県に貸すことを決め、
翌年の春、南の島の大地に
岩手県の希少な種もみが大切に蒔かれたという。

そして秋。

願いは叶って稲穂は実り、
多くの種もみを収穫することに成功。
岩手県の米のDNAは、
途絶えることなく見事復活を遂げた。

南の地で命を吹き返したその種もみは、
また東北まで輸送され、
翌年、岩手県の各農家に配付。

岩手県の農家の皆さんは、
石垣島の温情に深く感謝して、
その収穫米に
「かけはし」という名を付けたという。

北と南の友情の架け橋。
その名を聞いて、
石垣島の人たちもたいそう喜んだそうだ。

そして、お礼返しに
あるユニークなプランを進めることにした。

 「沖縄と岩手の友情の証に、
  かけはしを使った
  “泡盛”を作ろうじゃないか!」

名乗り出たのは、石垣島の
代表的な泡盛メーカーである請福酒造。

泡盛は、通常タイ米から作るので、
日本米から作るのは
請福酒造にとっても簡単ではなかったと思う。

それでも、しばらくして、
かけはしで作られた泡盛が見事完成。
ただ、請福酒造で
名前はあえて付けていなかった。

 「この泡盛の名前は、
  岩手の人が決めてくれたらいいさ〜」

石垣島からの粋なはからいを受け、
岩手県では早速ネーミングが募集され、
1000通を超える応募の中から
「純情泡盛 南雪」という名前が決定した。

日本米から作られたその泡盛は、
とてもフルーティーな味わいで、
人の温かさのようにやさしい感じがするのだという。

今はもう生産が終了しているのかな?
流通量も少なく、僕はまだ飲んだことがないけれど、
岩手県に行くことがあれば飲んでみたいと思う。