No.2874 拝啓 良い人

 
   「拝啓 良い人」

 今、
 あなたが言っていることが
 間違っているなんて思わない。

 正しくて、きれいで、
 きっと誰からも
 否定されることはないでしょう。

 でも、
 たったそれだけのような
 気もするのです。

 私も良い人でありたいけれど、
 良い人でいるために
 自分まで騙す人にはなりたくない。

 「良い子になるには、
  人に迷惑をかけないことよ」

 幼い頃、
 学校の先生に
 そう教えられました。

 誰かを傷つけたり、
 嫌な思いをさせたりしちゃ
 ダメなんだって。

 それを守って、大人になって、
 周りから見れば
 良い人になりました。

 目の前に宝箱が落ちていても、
 盗みません。

 その箱の中に
 大好物のケーキが入っていたとしても、
 ちゃんと持ち主に返すのです。

 なんて美しい行為でしょう。

 そして、
 私にとってみれば
 なんと残酷な鎖でしょう。

 世間に嘘をつかないために
 自分の心に嘘をついて、
 気づいているのに
 気づかないふりをして。

 発見も、感動も、
 涙も、愉しさも、
 すべて無表情のまま
 黙って捨ててしまうのです。

 私は、
 死んでいるように
 生きたくないから、
 やっぱり悪い人でいようと思います。

 美しいものは美しい、
 好きなものは好き、
 欲しいものは欲しいって、
 素直に叫ぼうと思います。

 色んな人から
 不良扱いされたとしても、
 笑ってくれる人が一人でもいれば
 それでいい。

 それがあなたなら、もっとうれしい。