No.3669~No.3671 はじめての東京家族旅行


●今日のおはなし No.3669●

 
 
 
 「うわぁ…、近畿地方、台風直撃やな…」
 
 
 
家族旅行初日。

朝早く目覚めてテレビのNHKニュースをつけると、
台風がいつの間にか四国あたりにまで迫っていた。

とは言え、これも毎年恒例のこと。
夏の旅行では、これまでも
必ずと言っていいほど台風と戦ってきた。

そして、なんだかんだ言って
最終的には勝ってきたので、
今年も「まぁ、どうにかなるだろう」と思っていた。
 
身支度を整えてから家を出発し、
近くから出ている高速バスで新幹線の駅へ。
次第に雨風が強まり、交通機関への影響が心配される中、
ギリギリのタイミングで関西を脱出した。

こうして今年もなんとか、
我が家の夏旅行がスタートした。
 
 
 
  「めっちゃはやい! めっちゃはやいで!!」
  
 
 
新幹線に乗るのは、息子も娘も初めてだった。

息子はプラレールで遊んでいた幼少時代から、
娘は前の家の近くにあった
川の堤防でよく眺めていた頃から、
二人にとって新幹線は“憧れの乗り物”だったから
初めての乗車にテンションもMAX。

まだ旅は始まったばかりだけど、まずは一つ、
親として我が子に思い出をプレゼントできた気がした。
 
 
しばらくして東京が近づくと、
車窓の向こうに見える高層ビルの風景に
息子の目の色が変わった。
 
 
 
  「スゲぇ…、大きなビルばっかりや」
 
 
 
実は今回、お金にものを言わせた
非クリエイティブな旅行が嫌いな僕が
大金をはたいてまで行き先を東京にしたのは、
息子のある一言がきっかけだった。
 

   
  「父上、私も男ですので
   日本で一番と言われている都会というやつを
   一度この目で見てみたいでござる」
 
 
 
サムライ風に言うとこんな内容だったと思う。

息子がやたらと一丁前なことを言い出したので、
「お、おぅ。そしたら見せたろーやないか!」
と、行き先が決定したわけで。

家族旅行という目的は半分、
もう半分は、それなりに大きくなった息子の
社会勉強が目的だった。
 
 
 
 「どうや? これがオマエの見たかった都会やで」
 
 
 
   「うん、デカいな。大阪とはなんかちゃう」
 
 
 
何を感じたかは分からないけど、
息子は家から持ってきたNintendo DSで
やたらと東京のビルの写真を撮っていた。
 
 
東京駅に到着後、
ホテルのチェックインまでに時間があったので、
ちょっとだけ東京観光をすることに。

「バカと煙は高いところに上りたがる」という言葉のとおり、
昔から高い場所が好きな息子の希望で
東京スカイツリーを見に行くことにした。

スカイツリー、
僕も初めて訪れたけれど、すごいね。

建築や高さはもちろんだけど、
ディスプレイや映像、コンセプチュアルなデザイン…etc.
中のコンテンツがどれもこれも素晴らしい。

嫁や子どもたちは展望台からの景色を楽しんでいたけど、
僕は外よりも中を見てひたすら楽しんでいた。
 
 
東京の街を空中からたっぷりと堪能した後、
そこからバスに乗って浦安へ。

都内でも強風が吹き始めていたので
スマホで台風情報をチェックしてみると、
どうやら近畿地方に台風が直撃して
僕がよく利用している電車も止まっているようだった。
 
 
 
 「危ね~。ホンマ、
  ギリギリの脱出やったな…」
 
 
 
夜、海に近いホテルに到着し、
初日の大移動がようやく終了。

ベッドの上ではしゃぐ子どもたちをよそに
窓の外を眺めると、
ホテルの庭に植えてあるヤシの木が大きく揺れて
だんだんと波も高くなっていた。

テレビをつけると、
翌日の天気予報は、曇り時々雨。
注意報もたくさん出ていた。
 
 
 
 「明日のディズニー、ヤバそうやな…」
 
 
 
台風の進路が次第に東へ向かってきているのが
気になったけど、
考えても仕方ないので早めに眠った。
 
南国柄のカーテンの向こうからは、
徐々に強まっていく風の音が聞こえていた。 
 

●今日のおはなし No.3670●

家族旅行2日目。

朝起きて部屋のカーテンを開けると、
かなり強い風が吹いていたけれど
まだ雨は降っていなかった。

テレビのニュースをチェックすると、
どうやら台風の進路が
少しだけ北寄りに変わったようだった。

天気予報では、
ずっと曇りで夕方頃から雨。

一日ずぶ濡れのディスニーランドを覚悟していたので、
夕方までもってくれるだけでも、正直
「ラッキー!でかした台風!」という気分だった。
 
 
朝食後、身支度を整えて、
今回の旅のメインでもある
東京ディズニーランドへ。

我が子をここに連れてくるのは、
ある意味で僕の夢だった。

独身の頃から、
なんとなくイメージにあったんだよね。
「いつか結婚して、子どもができたら、
 一度はディズニーランドに連れて行ってやりたいな」って。

初めてディズニーランドを訪れたのは
小4の頃、姉と二人で
東京のおじさんの家まで遊びに行った時。

その次は、中学3年の修学旅行。
丸坊主に学ランという田舎スタイルで
ミッキーと写真を撮った。

その次は、結婚前に彼女(今の嫁)と。

そして、こうして本当に
子連れで訪れる日がやって来るとは。
時の流れを感じるとともに、
ようやく僕も大人になれたような
妙な達成感を感じた。
 
 
朝8時、歓声とともにゲートがオープン。

風が強いランドの中は
思っていたほどの混雑もなく、
それほど並ばずに次々とアトラクションに乗れた。

行きたかったアトラクションも
15時ぐらいまでにはすべて制覇。

ここまで来たら、もう
「台風のおかげ」としか言いようがない。
午後からは空も晴れてきて、いつのまにか
理想的な夏の一日になっていた。
 
余談だけど、 途中ランド内に
わりと料金の高いレストランがあって。
「昼飯にこの金は出せんな~」と立ち去ろうとしたんだけど、
 
 
   
 「この店、どこかで見たことがあるんだよな~。
  あっ!! たしか…、
  昔、東京のおじさんが連れてきてくれた店だ」
 
 
 
と後から気づいて。
30年前の優しさに、今さら感謝したりもした。
 
 
   
そうこうしているうちに日が暮れ始めて、
19:30頃からエレクトリカルパレードがあるので、
1時間前から場所を取って座っていた。

あまりに順調すぎて
天気のことなどすっかり忘れて楽しんでいたけれど、
その時、キャストが叫んでいた言葉を聞いて我に返った。
 
 
 
  「皆さん!あと1時間程度でパレードが始まりますが、
   台風の影響もあり、この後雨が予想されています!
   場合によってはパレードを中断させていただく
   可能性もございますので、…」
 
 
 
雨?中止!?
慌ててスマホで周辺の空模様をチェックすると、
どうやら都心あたりで大きな雨雲が発生していて、
ちょうど1時間後あたりに
ランド付近を通過しそうなことになっていた…。

やがて、空からポツポツと雨が降ってきて、
微かなため息とともに
傘をさす観客が増え始めた。
 
 
  
 「子どもたちが一番楽しみにしていたパレードだけど、
  雨で中止なら…仕方ないな。
  ここまで天気がもっただけでも感謝しなきゃ…」
 
 
 
半ばあきらめて
帰りのバスの時刻を調べていたその時、
不思議なことが起きた。

パレード開始の5分前になって、
突然、雨がピタッとやんだのだ。
まるで、夜空に魔法がかけられたみたいに。
 
 
 
 「あれっ? えっ? マジで??」
 
 
 
これにはちょっと鳥肌が立った。
雨がやんだ理由はよく分からないけど、
「夢の国、スゲーな」って。

その直後、予定どおり
エレクトリカルパレードが開催され、
きらびやかな光に包まれた
夏の夜を堪能することができた。

大人も、子どもも、
みんなが光輝くパレードを見つめながら
笑っているその場所は、まさに夢の国だった。
 
 
名残惜しくゲートを出てから
帰りのバス停まで歩いている時、
いつもはちゃんと礼を言わない子どもたちが  
 
 
 
  「おとーさん、
   ホンマにつれてきてくれてありがとう!」
 
 
 
と言ってくれて。
 
 
 
 「お、おぅ! オマエら、感謝せーよ!」
 
 
 
と見栄を張りながら、
僕も遠ざかっていくシンデレラ城に向かって
心の中で「ありがとう」と手を合わせた。
  
  

●今日のおはなし No.3671●

家族旅行3日目、最終日。

台風は日本海へ抜けたらしく、
前日までとは打ってかわって天気は快晴。
風も止み、都内は37℃の猛暑予想となっていた。
 
 
 
 「ひえ~、今日は死ぬほど暑そうやな。
  まぁ、それもいい思い出になるか」
 
 
 
数日お世話になったホテルや
ディズニーランドに別れを告げ、
少し混雑ぎみのJRで千葉から東京へ。

帰りの新幹線までは時間があったので、
息子の求めていた都会とやらを見せに
六本木まで出かけてみることにした。

ちょうどこの時期は
テレビ各局が夏祭りを開催していて、
六本木にはテレ朝もあったので。
 
 
テレ朝の夏祭り会場は
前日のディズニーランドに比べると
どうしてもショボく見えたけれど、
サッカー好きな息子は
「日本代表 vs オーストラリア戦 横断幕プロジェクト」
に参加したり、ドラえもん好きな娘は
ドラちゃんと一緒に写真を撮ったり。

たまたま局の屋上から東京タワーを見ることもできて、
なんだか得した気分になった。

途中、テレビでしか見たことの無かった
六本木ヒルズのあたりを歩いたり、
都会のマクドの混雑ぶりを体験したり、
次々と溢れ出てくる東京のモノやヒトに
何度も圧倒されながらも
もう一つの目的であった社会見学は達成できた。
 
 
昼過ぎ。

前日までの疲れや酷暑のおかげで
すでに家族全員クタクタだったので、
早めに六本木を後にして東京駅へ戻った。

構内にある待ち合い室でしばらく涼んでから、
帰りの新幹線に乗車。

アナウンスが流れて車両が動き出すと、
息子が名残惜しそうに
車窓の向こうのビル群を眺め始めた。
 
 
 
 「東京ともお別れやな~。
  3日間、どうやった?」
 
 
 
    「オモロかった。来月また来よーよ」
 
 
 
 「そりゃ無理や、金ないわ(笑)
  将来お前がサッカー選手になって
  今度は自分で稼いだ金でココに来い。OK?」
 
 
 
    「わかった」
 
 
 
今回、結果的には
数年前の沖縄旅行よりも費用がかかったけれど、
これも子どもたちの勉強代、
将来への投資だと思うことにしよう。

いつか息子が、
帰りの新幹線で交わした男の約束を
守ってくれることを期待する。