No.556  鬼のいないかくれんぼ





 「Sーくん、あーそーぼー。」



団地の扉をあけて、外に飛び出た。
今日の遊びは、かくれんぼ。

ひろ君が桜の木に向かって数を数えているあいだに、
僕と、たかゆき君とのりちゃんは、
団地の自転車置き場や、ゴミ捨て場の隅に隠れた。

ひろ君の足音が近づいてくると、ドキドキした。
足音が遠くなると、ホッとした。

いつの間にか夕方になって、
周りが薄暗くなってきた。
ひろ君はまだ、僕を見つけてくれない。



 早く見つけてよ、はやくはやく…



見つかりやすいように、少し頭を出した。
? 誰もいない。
ひろ君も、たかゆき君ものりちゃんも。



帰り道は、ひとりぼっち。
後ろを振り返るのが怖かった。

石っころを蹴飛ばしながら、
わざと転んだふりをしてみた。
まわりには誰もいなかった。

みんなは、僕のことを忘れてしまったんだろうか。
明日僕が誘いにいったら、
浦島太郎のような目で見られるんだろうか…。

自分の存在が、ぐらぐらと揺れて怖かった。

子供ながらに感じた、アイデンティティー。
家の扉を開けて、お母さんの顔が見えた瞬間、
膝元のエプロンに抱きついて、大声で泣いた。