No.586  昼下がりの教室

チャイムが鳴って、授業が始まる。

 「起ぃ立~、礼ぃ~、着席ぃ~」

小さな教室にこだまする委員長の声。

先生がチョークで黒板に向かって書き始めると、
みんなの鉛筆の音が教室中に響く。
今となれば、あの静かな時間も素敵だ。

穏やかな日差しがさしこむ窓際の席は、
席替えのくじ引きでも人気だった。

特に窓際の一番後ろの席は、
オッズにして1.1倍ぐらいの大本命、大人気。

みんな外が見たかったのかな。
授業中の教室から見える景色は、
なぜあんなに優しかったんだろう。

窓の外を見てぼーっとしていると、
隣の席から小さく折りたたまれた紙が回ってくる。
あ、一番廊下側の席に座ってる友達からだ。

教科書で隠しながらそ-っと紙を開くと、
「ちょー、オレ今日あの娘に告白するわ。」
なんていうメッセージが。

こちらもノートの端をやぶって、
「絶対決めろ!」と書いて小さく折りたたみ、
隣の席の子に頼むと、
みるみるうちに紙は廊下側まで運ばれていくのだ。

紙を開けた友達がくすっと笑い、
こちらに向かって親指を立てる。
「おう!やってやるぜ!」の合図だ。

何故かそんな時に限って、

 「○○○~、この答えは?」

と先生に当てられた。

   「えーっと、えーっと…」

何も聞いてなかったから分かるわけがない。
すると、どこからか“神の声”がするのだ。

     「○っし-3番。いや2番。うそうそ、3番やって。」

   「先生、3番です。」

 「そうやな。つまりここは…」

ほっ。助かった。

    キ~ンコーンカ~ンコ~ン

 「起ぃ立~、礼ぃ~」

終わりの号令に“着席”はない。
僕らは廊下へ飛びだすのだ。

嗚呼、懐かしき学生時代よ。
嗚呼、思い出がつまった教室よ。