No.4291 食べられる言葉

いつものうどん屋で、
遅めの昼食をとっていた。

今日のオーダーは「きつねうどんセット」。
シンプルだが、時間がない時にはこれに限る。

お店の力量というのは、
一番スタンダードなメニューを試せば
すぐにわかる。

マティーニを飲めばBarの力量がわかるように、
うどん屋はきつねうどんを食べれば
だいたいわかるのだ。

そんなことを思いながら食べていたら、
カウンターの隣に男女のカップルが座った。
 
 
 
 「えーっと、僕はきつねうどんセット、
  彼女は親子丼で」
 
 
 
数分後、目の前に運ばれてきた料理を食べて、
兄ちゃんの方が声を上げた。
 
 
 
 「このきつね、めっちゃうまいで!」
 
 
 
    「本当に? 親子丼のほうがおいしいよ」
 
 
 
 「いや、ホンマにうまいねんって!」
 
 
 
クールに反応する姉ちゃんに、力説する兄ちゃん。
いくら説明しようが、
その美味さは正しく彼女に伝わらない。

でも、僕には伝わる。
今まさに食べたばかりだから。

ずっと付き合っている彼女より、
初めて会った僕の方が
彼の舌の感覚を理解できるのだ。
不思議なもんだな、と思った。
 
 
料理とはつまり、「共通言語」である。

通常は思い出や体験を共有しなければ
生まれないものだけど、
料理なら食べるだけですぐに共通の言葉となる。

だから、友人同士は一緒に飯を食うんだな。
だから、家族はみんなで一緒に飯を食うんだな。

なんだか、今さらわかった気がするよ。
料理は、食べられる言葉なんだなって。