No.4330 大腸検査アゲイン


雨の朝、僕は会社ではなく自宅にいる。

人生2度目の「大腸内視鏡検査」、
再びこの時がやってきた。

なぁに、経験とは大きいもので、
初めてトライした前回ほどのドキドキはない。
要領はすべて分かっている。準備も万端だ。

昨日は検査前日ということもあり、
あらかじめ病院から渡された
「検査前3食セット」を食べた。

もちろん、
量や内容よりも消化優先のメニューだから、
贅沢は言えない。

朝は少量の「鳥雑炊」、
昼は「飲むゼリー2本」と
「お菓子のビスコ1個」だけ。

仕事をしながら空腹でめまいがしそうになったが、
なんとか無事に帰宅した。
ちなみに、夜のメニューは「おかゆ」と
赤ん坊の手ぐらいしかない
「煮込みハンバーグ」だった。

あまりの空腹でなかなか眠れなかったが、
気のせいか、少しだけ腰回りが痩せた気がした。
 
 
そして迎えた今日、検査当日。

学校へ行く子どもたちを見送った後、
腸をすっからかんの状態にするために、
僕は「腸管洗浄剤」を作る準備に取りかかった。

薬の入った透明のビニールに2リットルの水を入れ。
すべてを溶かすように何度も振る。

二度目ともなれば慣れたもので、
僕はまるでカクテルを作る
バーデンダーのように軽快なリズムで
大量の下剤を作り上げ、冷蔵庫に入れた。

そう、洗浄剤は独特な味がするけれどが、
冷やすと少しだけ飲みやすいのだ。
特に、暑いこの時期は。

我が家の冷蔵庫の中央に
2リットルの洗浄剤が据え置かれた瞬間、
僕は悟った。
「さて、今回もいよいよ始まるな」と。

頭の中でミッション・インポッシブルの
テーマ曲が鳴り始めた。
 
 
今回検査を受けるのは前とは別の病院なので、
事前の段取りが少しだけ違う。

病院から手渡された指示書には
「洗浄剤を飲み始める前に2種類の錠剤を飲め」と
最初のミッションが書かれていた。
 
 
 
 「えーっと、なになに、ドンペリドン?
  フッ、なかなかご機嫌な名前の薬じゃねーか」
 
 
 
洗浄剤しか飲めない日に
ドンペリという名の薬を
プレゼントしてくれるなんて、きっと、
洒落の分かる製薬メーカーの仕業に違いない。

僕は高級なシャンパンをあけるような気分で
包装を開け、一気に薬を飲み込み、
一応の準備は整った。
 
 
 
 「いや、待てよ。
  パソコンの電源でもつけておくか」
 
 
 
初めてトライした時は、
目の前に大量の洗浄剤容器を置き、
格闘するかのようにジッと集中しながら飲んだ。
結果、洗浄剤の味に飽きてしまい、
途中から苦痛でしかなかった、

今回はそうならないために、
洗浄剤を日常に馴染ませながら
トライすることにした。

つまり、まるで休日にパソコンを眺めながら
コーヒーを飲むかのように、洗浄剤を飲みながら
ゆっくりとネットでも楽しんでみようという作戦だ。

いやぁ、経験というものは実に素晴らしい。
人間、この年齢になってもまだ賢くなるものだな。

開始時間が迫ってきたので
なるべくテンションが上がりそうなグラスに
洗浄剤を注ぎ、
僕はノートPCの横にそのグラスをセットした。

ルールはいたってシンプルだ。

2リットルの洗浄剤を、2時間以内に全部飲む。
そうすれば、腸内がきれいになって、
最後にはお尻から岩清水のようなきれいな水が出て
ゲーム終了。
 
 
 
 「さて、始めるか」
 
 
 
最初の一口は懐かしい味がした。
そうそう、こんな三流メーカーが作った
スポーツドリンクのような味だった。

この味に意識が集中してしまうと途中で辛くなる。
あくまで普段どおり、少しずつ飲まなければ。

この作戦が功を奏したのか、
それとも暑いこの時期だったからか、
最初の1リットルはパソコンでニュースを見ている間に
わりとすぐ飲み終わった。

このあたりから便意も出始め、
少しずつ腸内がきれいになっていく実感は
出てきたが、
お尻から放水したものを見ると
まだまだ岩清水にはほど遠い。
 
 
後半戦。
洗浄剤を飲むペースが急に落ちた。

意識をそらす作戦は成功したとは言え、
やはり1時間が限界なのだろう。
誰だって同じ飲み物を1時間以上も飲み続けていれば、
飽きるものは飽きる。
 
 
 
 「くっ、ここからが勝負だな…」
 
 
 
そこからの戦いは長かった。

注いでも注いでも一向に減らない洗浄剤、
刻々と過ぎていく時間、もうろうとする意識。。。

お尻よりも先に
上の口から出そうなのを我慢しながら、
僕はなるべく楽しいことを考えながら
よく冷えたマズい液体を飲み続けた。

そして、残すところあと10分、
まだ洗浄剤はかなり残っていた。
 
 
 
 「き、きつい…。とにかく味を変えなければ…」
 
 
 
吐き気を我慢しながら、
僕は水道で口をゆすいだ。
ただの水が死ぬほど美味しく感じた。

その後は水と洗浄剤を交互に飲みながら、
なんとか時間内にミッションを達成した。
お尻から岩清水があふれた時は、
もうそのまま死んでもいいほどの達成感だった。
 
 
この後、病院で検査を受けに行く。
予約の関係で14:00まで待つらしい。

昨日も少食だったし、今日も絶食。
ああ、いつになったら僕は
ご飯が食べられるのだろう?

無の境地で目をゆっくりと閉じながら、
僕はソファに横たわり、ただその時を待っている。