No.4484 暗闇の中、光に包まれた爺さんの言葉

この間の夜、仕事帰りに
駅から自宅まで歩いていた時のこと。

いつもどおり
薄暗い住宅街の細道を歩いていると、
突然、左方向から眩しい光が見えた。

ちょっとビクッとして光の方向を見ると、
全身に電飾のようなものをつけた爺さんが
犬を散歩させていた。

よく見ると
犬の首輪にも電飾が施されていて、
どうやら爺さんと犬の灯りが
眩しさの理由だと気づいた。

夜の散歩やランニングは危ないので、
蛍光や反射アイテムを身につける人は
わりとよく見かける。

でも、電飾を身に纏って歩く人は
あまり遭遇したことがなかったので、
直感的に、別の意味の危なさを感じて目をそらした。

僕の近くを歩いていた中年サラリーマンも
同じように黙って過ぎ去ろうとした。
君子危うきには近寄らず、大人の常識である。

すると、電飾で眩しい光を放つ爺さんが
僕たちの方を見ながら、
笑顔でこう話しかけてきた。
 
 
 「こんばんは。
  皆さん、おかえりなさい。
  遅くまでお疲れさまでした」
 
 
もう一人の中年リーマンも同じだったと思うけど、
足早に立ち去る気満々だったので、
予想外の言葉に不意をつかれだ。

中年リーマンは
そのまま何も聞こえなかったように去った。

僕は、何か答えなきゃとは思ったものの、
すぐには返す言葉が見つからず、
「こ、こんばんは…」と会釈するのが精一杯だった。

家に着いてから、
なんとなくスッキリしなかった。

見た目はともかく、
遅くまで働く者を労う爺さんの言葉には
品があった。

それに比べて自分がとった行動は、
なんと青かったことかと。
年齢だけの差ではないけれど、
人間として完敗だなと感じた。

昔ならいざ知らず、今の時代、
見知らぬ人に声をかけるのは勇気がいる。

相手の距離感を考えずに
コミュニケーションをとりにいくのは
むしろタブー視されるようになったし、
近所でさえ話したことのない人もいる。
道で会った人全員に挨拶するのは難しい。

それでも、
ちょっと考えを変えようかなと思った。
せめて声をかけられた時に
きちんと返事ができるぐらいにはならなくては。

暗闇で後光のさしていたあの爺さん、
ひょっとしたら神様だったのかな?
教えてくれてありがとう。

次に会ったら、
「こんばんは!お疲れさまです!」と笑顔で言うよ。
昭和の距離感を守っていくよ。