No.878 初心者だらけのスキー挑戦

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初めてスキーに行った時、
雪の上に立つのが精一杯だった。

何度も何度も転んでは起き、起きては転び、
初日は特に、どっぷりとブルーになったのを覚えている。
リフトからスムーズに降りてくる人が宇宙人に見えた。

一緒に行った仲間にスキー常連のやつがいて、
2日目にそいつが僕たち初心者数人にこんな提案をした。



 「一番高いところにある、上級者コースに行こや。
  あそこで根性つけたら、下なんて楽勝やで♪」



あまりにサディスティックな提案に、
ただ呆然とするだけの僕たち。

しかし、
「男たるもの、いつまでも女の前で転んでいられない」
というワケの分からないプライドが背中を押し、
僕たちはリフトでてっぺんを目指した。

リフトを降りて数回転んだ後、
なんとか体を支えつつ、行き先を見下ろす。
…、こっ、怖ぇ…。



 「さぁ、行くで♪」



そう言うと、経験者のそいつは僕たちを置いて
一気に下へ向けて滑り出した。

ターンを繰り返す姿が、
みるみる遠く小さくなっていく。



   「…。あかん、死ぬ。この山で絶対に死ぬ…」



そう思った僕たちは、慌てて下りのリフトを探したが、
今思えばそんなものあるワケがない。

下りなければ、この斜面を滑らなければ、
みんな揃って凍死してしまうのだ。



  「…、お、俺は行くぞ。」



半分青ざめた顔をした友人が、
心を決めて前に足を踏み出した。

次の瞬間、
友人は40mほど下まで止まることなく転げていった…。

…あぁ、尊い命が一つ消えた…。
スポーツ音痴だけど歌のうまい、
あんなにイイやつだったのに…。
神よ、なぜ僕たちにこんな試練をお与えになるのだ…。



10分後。
僕たち残った初心者たちは、心を決めた。



 「みんなで一緒に死のうじゃないか」



みんなで並んで
「せーのっ」と足を前に踏み出した瞬間、
まるで雪のコブにリンチをされているように、
一人残らず体を強打しながら転げ落ちていった。

若い男たち数名が雪山で心中している様子は、
周りから見ればさぞかし滑稽だったと思う。

一番下まで下りるのに、いったい何回転んだだろう。
ぜぇぜぇ言いながらゴールまで到着すると、
先に滑っていった経験者のやつが
缶コーヒーを飲みながら待っていた。



 「おっ。どやった? スキーってオモロイやろ?」



僕たち初心者の誰一人として、
その質問に答えるやつはいなかった。
軽いパニックに陥っていたのかもしれない。


 「なんや元気ないな。あ、でも、
  よー見たらみんなちゃんと立ててるやん。」



…、!!
ホンマや、立ててる…。立ててる!

それに気づいた瞬間、
僕たち初心者の間で歓声があがった。



   「スゲェやんお前、立ってるやん!」



      「そういうお前こそ、カッコよく立ててるやんけ!」



今思い出せば、
なんてカッコ悪い賞賛ごっこなんだ。
でも、あの時は本当に嬉しかった。

生きてるってことは、
立ってることなんだと実感した。


最近、全然スキーに行っていない。
初めての時から何度か雪山に行ったので、
ある程度は滑れるようになったけど、
今行ったら…、また滑れないんだろうなぁ。

でも、もう一度
あの心中から復活した喜びを
誰かと分かち合いたい気もする。