No.1021〜1023 新婚旅行でバリへ


●今日のおはなし No.1021●

先週、休みの間に「バリ」に行った。
日本を出るのは、卒業旅行のアメリカ以来だ。

何よりも驚いたのは、日本語の多さ。
「英語で通じるかな…」なんて、ちょっと不安に思って行ったのに、
お店のおばちゃんもタクシーの運ちゃんも、多くの人が片言の日本語を話す。

やっぱり日本人観光客が多いせいらしいけど、
驚いた、というより感心させられた。
「日本人なんてほとんどの人が母国語しか話せないのに」と。

滞在3日目。
ホテルにうじゃうじゃいる日本人を避けるように、
嫁と2人で観光地でもなんでもない街を歩いた。

赤道付近特有の膨大な紫外線にさらされながら、
繁華街にたどり着くと、
どこからともなくまた日本語が聞こえてきた。

「タクシーイラナイ?イラナイノ?」
「オニイサン、ハッパ、タイマアルヨ」
「コンニチハ、ドコイクノ」

道端に座っている人が、
前を過ぎるたび日本語で話しかけてくる。
なるべく聞こえないふりをして歩いていると、
妙な声が聞こえてきた。

「コンバンミー」

こんばんみー?
そ、それは、びびる大木のネタではないか!?
間違いか? いや、それにしても
真っ昼間に「こんばんみー」はないだろう。

声の先を見ると、どこにでもいそうな
現地のおっちゃんが笑っていた。
たぶん、日本から来た誰かに教えられたんだろうな。

どん欲というか、なんというか、
食っていくために日本語を覚えようとする姿勢には、
本当に頭が下がる思いだった。

それから日射病寸前になるまで歩いた後、
昼ご飯を食べるために海のそばにある店に入った。
暑さに負けてぐったりと椅子にもたれていると、
後ろから声がした。

「イラッシャイ、テ ユーカ、アツソウダネー」

笑顔で注文を取りに来たこの男の子との出会いが
この旅一番の思い出になるとは、
その時はまだ知るよしもなかった。

 

●今日のおはなし No.1022●

(昨日の続き)

「ココノゴハン、ウマイヨ。“マイウー”ダヨ」

流暢な日本語と日本のギャグを巧みに連発するその少年に、
店に着いたばかりの僕らは、しばし呆気にとられた。

少年だと思っていたけれど、
年齢を聞いてみると27歳。
大学で日本語を勉強して、今は店で働いているらしい。

それまで会ったどのバリ人よりも日本語を上手に話す彼を見て、
なぜか少しうれしくなった。

「日本には来たことあるの?」

「イヤ、オカネガタマッタラネ。
ナシゴレン デ イイヨネ?」

「あ、ああお願いします。ありがとう」

「チガウヨ」

「?何が?」

「ソウイウトキハ、“ヨンキュー”ッテイウノ。
サンキュージャナイヨ、ヨンキュー、ネ♪」

そういうと、彼はウィンクをして
オーダーを厨房に告げに行った。
いやいや、バリの人に日本語を教えられるとは。
まだまだ勉強が足りないな。

数分して、彼がテーブルにナシゴレンを持ってきてくれた時、
すかさずこう言ってやった。

「ヨンキュー」

「ソウ!オニイサン、アタマイイネー。
カオハヨクナイケドネ。
ジョーダンジョーダン。ハッハッハッ!」

隣で爆笑している嫁。
僕も思わず大きな声で笑ってしまった。

さっきまでのグッタリ感も忘れ、
「この店に来て良かったよなー」とナシゴレンをほおばっていると、
また彼がテーブルにやってきて話し始めた。

「フタリ、ケッコンシテルノ?」

「え、ああ、してるよ」

「ユビワシテルカラネ。ナガクツキアッテルデショ?」

「え、うん、長いけど、
なんで分かったの?」

「ワカルヨ。トモダチミタイダモンネ」

そうか。僕たち2人からはそんな雰囲気が出てるんだ。
彼が何気なく放ったひとことは、とても新鮮で重みのある言葉だった。

「デモ、ココロノナカハ“Hot!Hot!”ナンデショ?」

そういって彼は、藤井隆のホットホットダンスを踊り始めた。
思わず2人で爆笑。こんなに心の底から笑ったのは久しぶりだ。
「そんなギャグ、どこで知ったの?」と笑いながら嫁が聞くと、
「“カゼ ノ タヨリ”ダヨ」と言ってまた彼は店の奥へと消えた。

飯を食い終わって店を出る前、
彼と一緒に写真を撮ってもらおうすると、
彼は笑いながらこう言った。

「オニイサン、トモダチ、ウウン、“ホモダチ”ダネー」

「笑。そうやね、ホモダチや!」

店を出たあと、不思議と足が軽かった。
「またここに来なくちゃな」。
そう嫁と笑いながら、日が沈むまで歩いてホテルに戻った。

 

●今日のおはなし No.1023●

(昨日の続き)
ホテルに帰り、街で出逢ったトモダチの顔を思い出しながら
ぼーっとベッドで横になっていると、
ソファに座っていた嫁が旅行本を片手に呟きはじめた。

「スラマ、スラマシアン。スラマソレ、スラマ…」

一瞬、疲れて頭がおかしくなったのかと思い、
「なっ、何してるん?」と聞いてみると、
「バリ語を勉強してるねん」と嫁。

そう、ちょうど僕も同じことを思っていた。
日本語を話すバリの人を見習って、
自分も現地の言葉で話せるようになりたいと。

晩飯を食うまでの間、しばらく2人でバリの言葉を勉強することに。
勉強してみると、なかなかこれが面白い。

「スラマパギ」(おはよう)、
「スラマシアン」(正午ー16時までのこんにちは)、
「スラマソレ」(16時ー日没までのこんにちは)、
「スラママラム」(こんばんは)、と挨拶が4種類もあったり。

「『ありがとう』は、なんて言うねん?」

「えーと待ってや、『トゥリマカシ』やって」

そうそう、そんな言葉だった。
旅に出る前になんとなくは本で読んだことがあったのだ。
でも、結局到着してからは「Thank you」か「ありがとう」しか
いらなかったから、すっかり忘れてしまっていた。

夜、海辺の店で軽めの晩飯を食いながら、
一日の出来事を2人で語り合った。

チェックを済ませて店を出るとき、「アリガトウ」という店員に
嫁が「トゥリマカシ」と答えると、店員は一瞬驚いた顔を見せたけれど、
次の瞬間、胸の前で両手を合わせ、それはそれは美しい表情で
「サマサマー(どういたしまして)」と答えてくれた。

日本に帰った今でも、あの時の店員の表情が忘れられない。
日本語で接してくれていた時とは違う、あの表情が。
誰かの素顔を見たいなら、
その人の耳じゃなく、心に届く言葉が必要なんだ。

今回の旅行での一番の思い出は、バリの美しい海でもなく、
観光スポットでもインドネシア料理でもなく、
“人”と“言葉”だったような気がしている。

これまで誰にも聞かれなかったので結婚式でも言わなかったけど、
結婚前、プロポーズで嫁にこう言った。
「2人だけの言葉を作ろう、な」

その昔、おなはしでも書いた言葉だけど、
たくさんの場所で、たくさんの時間を共有して、
2人にしか分からない言葉をいっぱい作っていこうと。

今回の旅行で、バリで知ったいくつかの言葉が
僕たちのなかで新しい意味を持ちはじめた。
スラマシアン、トゥリマカシ、サマサマ。
どの言葉を聞いても、2人とも思い出すことのできるシーンがある。
あ、ついでに「ヨンキュー」も。

帰国後、また忙しい毎日が始まったけれど、
帰るメールに「トゥリマカえる」と書いてみるだけで、
なんだか楽しくなる。

嫁との言葉が増えたこともうれしいけれど、
このおはなしを送ることで、
sunny-yellowのみんなとの言葉が増えたら、うれしいな。

いつも読んでくれてトゥリマカシ