No.1220&1224&1225 続!我が家版IT革命 〜両親 vs Windows XP〜


●今日のおはなし No.1220●

金曜日の夜、
携帯使用歴1カ月未満のオカンから、
不審な携帯メールが届いた。


>お父さんからのメール、届いた?


? 何も届いていないけど…、どこの誰に送ったんだ?
首をかしげながら「届いてへん」と返信したが、
その後、オカンからの返事はなかった。

不気味だ。これは何かあるに違いない…。
金曜の夜は、胸騒ぎがしてなかなか眠れなかった。

土曜の朝。
病院でリハビリを終えて駐車場に戻ると、
携帯メールの到着音が鳴った。オヤジからだ。

まっ、まさか…、昨日送ったメールが今頃届いたのか?
世界中のネットワークを経由してきたのか!?
空想をめぐらせながら、急いでメール画面を開く。


>その後元気でやっていますか?所でパソコン・プリンターを買いましたが
>お母さんと悪戦苦闘しています。暇を見つけてレクチヤーにきてくれ!
>ここまで打つのに2時間かかった。


なるほど。そういうことかいな。
…えっ!? パソコン!?

どうやら我が実家では、世間からだいぶ遅れてやって来た
IT革命が着実に進行しているようで、
このメールで、初めて僕は両親がパソコンという
文明の利器を手に入れたことを知った。

それにしても、「悪戦苦闘している」と言われてもなぁ。
何につまずいているのかすら分からない。

ひとまず自宅に戻り、
状況を聞くために実家へ電話する。



 「もしもし、」



    「あー、アンタかいな。フフフ♪」



妙にハイテンションなオカン。
クリスマスにPSPを買ってもらったガキじゃあるまいし、
不気味だ。



 「ついに買うたんかいな」



    「買ってもぅてん♪
    でも、『ケーブルの数が足りん!』ってお父さんが苦戦しとるわ」



だめだ。状況がわからない。
電源ケーブルが足りないわけはないし、USBのことか?

とりあえず、ヘルプデスク並みの対応を。



 「何を買ったん? 機種は?」



    「ノートパソコン♪」



 「いや、そうでなくて…、機種よ機種。
 パソコンの横とかに書いてあるやろ?」



    「はいはい、ちょっと待ってやー」



30秒後。再びオカン。



    「XPや」



 「いやいや、それはWindows XPって言って機種じゃないのよ。
 FUJITSUの○○○とか、TOSHIBAの○○○○とか書いてあるやろ?」



    「FUJITSUや」



 「ホンマか?(=返答が早すぎる)」



    「ホンマや。FM-V500って書いてある」



やっと機種名まで聞き出したが、
大切なことを思い出した。

そういえば、オヤジはメールで
「パソコン・プリンターを買いましたが」と書いていた。
プリンターとつなぐ時点で苦戦してるのでは…。



 「プリンターは?」



    「複合機や♪」



 「…。メーカーは?」



    「CANONの一番エエやつ。スキャナとコピーもあって、
    デジカメの写真が自動的に出るやつ」



何っ!?
それって、ホンマにいいプリンターやないか!

電器店で勧められるがままに買わされたな。
このIT音痴の両親に、スキャナ付きを買わせるなんて…、
卑怯だ! 売上達成のためとはいえ卑怯すぎる!

とはいえ、
買ってしまったもんは仕方がない。

あきらめながら、
とりあえずさらに状況を聞く。



 「で、今はそのプリンターをつなごうとしてるんかいな?」



    「そうそう。でも、お父さんが…」



      「うるさい! あと1時間でなんとかなる!」



電話の後ろから聞こえてくるオヤジの声。

気合いをこめてプリンターをつなげば、
なんとかなると信じているような勢い。
ダメだこりゃ…。

っちゅーか、
さっきメールでヘルプを求めてきたのは
どういうことやねん?



 「わかった。ええわ。近いうちに帰る。
 でも、1日で設定を終わらせたいから、
 ADSLとかの手続きはしとってな」



    「もう、してあるねん♪」



 「どこで?」



    「『やふぅ』で。『やふぅ』がエエって言われたから」



 「…そうか。ま、どこでもエエわ。
 ただ、ウチの家って電話線が台所の近くから出てるから、
 インターネットする時は台所のテーブルになるで」



    「大丈夫♪」



 「? なんで?」



    「『無線』にしたから」



 「はぁ!?」



恐ろしい…。
電器店の販売員というのは実に恐ろしい。

最近、コードのない電話を持ち始めたばかりの両親に、
いきなりワイヤレスブロードバンドを提案するなんて…。
こんな親に、いらない知恵だけ与えてボッタくるなんて…。

ま、でもエエか。
ケーブルひいて「邪魔や!」とオヤジに言われるより、
無線にしといたほうが。

というわけで、近日中に実家へ帰ることになった。
どうやらこのネタ、今後もまだまだ続きそうである。

 

●今日のおはなし No.1224●

昨日、久しぶりに嫁と一緒に実家に帰った。
この間話した、親のパソコン設定をするために。



 「ただいまー」



    「おぅ、待っとったんや!
    まぁ、あがれあがれ」



今まで何度か帰省してきたが、
こんな歓迎ぶりは初めて。

少し戸惑いながら靴を脱いであがると、
あった。決して和室には似合わない、
少しデカめのノートパソコンが。

ん? あれ?
もう、ちゃんと無線用の機器がついている。



 「設定、終わってるやん」



    「おぅ、説明とかを書見ながら設定はしたから、
    もうインターネットは見れるんや」



ほぅ。やるじゃん。

と、目を横に移すと、
テーブルの上に8冊ぐらいPC入門書が置いてあった。

まさか…、これを全部読んだのか…。
我が親ながら、たいした集中力だ。



 「え? ほな、もうエエやん」



    「いやいや、違うがな。まぁ、座れ。
    聞きたいことがよーさんあるねん」



仕方なく、座布団の上に腰を下ろすと、
間髪入れずにオカンがケーキと紅茶を運んできた。

なんだ、この厚待遇。不気味だ。
嫁と二人でビクビクしながら茶を飲む。



 「で、何が知りたいんよ?」



    「ええと、まずやな、デジカメの写真を
    プリントするにはどうしたらエエねん?」



ある意味では予想どおりだった。

親がパソコンを買ったのも、孫の写真を見たり、
自分の写真を孫に送りたいから。
この質問は、絶対にやって来ると思ってた。



 「デジカメは?」



    「これや。会社からパクった。
    なんなら、まだ50台ぐらいあるぞ。いるか?」



 「…。買えよ。
 まぁエエわ。どれどれ…、これはな、こうやって…」



    「待て待て待て! お母さん、ノートと鉛筆を持ってこい!
    よし、最初からもういっぺんやってくれ!」



まるで長嶋監督のコメントを聞き漏らすまいと
耳を澄ます記者のように、ノートと鉛筆を持ち、
こちらの説明を食い入るように聞く両親。

「なんなんだ、このパワーは…」
少し圧倒されながら、デジカメの説明をする僕。

数秒後、事前に試し撮りしていたという
オカンの間抜けな顔がプリンタから出てくると、
親父が歓喜の雄叫びをあげた。



    「おぉぉぉ! なるほどな! そうか!
    わかった! よし、次や!」



 「…、次は?」



    「ゴルフ場や」



 「ゴルフ場!?」



こちらの質問に答えることもなく、
夢中でゴルフ場のホームページを開く親父。
嫁は隣でずっと笑ってた。



    「ここの会員情報を知りたいんや」



 「どれ? はいはい、このネット会員ってやつになりたいんやな。
 これには、まずメールアドレスを作らなアカンわ」



    「なんでや?」



 「なんでって…、メールでコースの空き状況とかの
 情報が送られてきよるんよ」



    「メールを相手に教えなアカンのか?」



 「そっ、そうやけど…」



やたらと不審がりながら、眼光も鋭く
ゴルフ場のホームページを睨み続ける親父。
なんでやねん。
アンタが会員になりたいって言うたんちゃうんかい。

まぁでも、親父には
その仕組みが理解できなくても仕方ないか。
とりあえず、ちゃちゃっとメールの設定を終わらせた後、
論点を変えることに。



 「このゴルフ場って便利やん。
 登録しとけば、いろいろ特典があるみたいやし」



    「何?ホンマか? よし、貸せっ」



パソコンの前の席を陣取り、
会員登録の情報を入力しはじめる親父。

あー、よかったよかった。
この隙にケーキでも食おう。

それから20分ほど、時折後ろから聞こえてくる
「くそっ、このパソコン壊れとる!」という親父の声を背に、
オカンと嫁と3人で世間話をした。



    「よし、できた!」



 「はい、これでメールに情報が届くわ」



    「ホンマに届くんか?」



 「あ、あぁ、たぶんな。(ゴルフ場に聞いてくれ…)」



    「よし、ワシの聞きたいことは終わりや」



少し胸をなで下ろす僕。
「…はぁ、ひとまずこれで今日の用事は済ませた」。
そう思った瞬間、オカンが突然手をあげた。



      「はーい、じゃあ、次はお母さんの番!」



レッスン開始から3時間。
親からの質疑応答はまだまだ続くのであった。

(つづく?)

 

●今日のおはなし No.1225●

(昨日のつづき)

親父への説明が終わったと思ったら、
今度はオカンのための質疑応答タイムが始まった。



      「『せんいしてぃ』にある店を探したいんよ」



 「センイシティって、新大阪の?」



      「そうそう。太極拳の服が売ってるらしいねん」



好奇心とは、人間が賢くなるために欠かせない力の源だ、
と誰かが言ってたが、なるほど。
オカンを見ているとよくわかる。

太極拳のためなら、
苦手なパソコンも克服しようというその心意気、
あっぱれだ。



 「いい質問やな。たぶんこれから一番多く使うやろう、
 『検索』の仕方を教えておくわ」



      「検索?」



    「待て!ワシにも教えろ」



再び親父が参入する中、
僕はYahoo!やGoogleを例にとって説明をはじめた。



 「エエか、単に『センイシティ』と打ってもたくさん出てくるから、
 検索ワードを足していくねん。たとえば、
 『センイシティ』『地図』とかな」



      「うんうん、それで?」



 「そしたら、こうやって絞り込まれたページが出てくるから、
 あとはクリックするだけや」



      「はぁー、なるほど。便利やなぁー」



文明の力に感心しまくりのオカン。
ノートにメモするその手は、
決して止まることがなかった。

この後、何度か実践レッスンをして、
午後17:00頃に無事パソコン授業が終了。

と、いきなり親父がむくっと立ち上がった。



    「よし、お好み焼きを食いに行くぞ! ついてこい」



あまりの展開の早さに思わず笑う嫁。

嫁よ、違うんだ、
親父は頭がおかしいわけじゃなく、
不器用なので接続詞を知らないだけなんだ。

ま、いいか。
僕にはどこにいくか、だいたい予想がついていた。

親父の行きつけの店は、2軒。
南に徒歩3分のお好み焼き屋か、
北へ徒歩5分のお好み焼き屋。

その日は、
「北」のお好み焼き屋へと連れていかれた。



  「いらっしゃいませー、あ、Hさんやないの!」



    「ますみさん、4人いけまっか?
    コイツ、うちの息子ですわ!」



 「あ、どうも、息子です。いつもお世話に…(なってへんけど)」



というわけで、
いかにも常連さんが集まりそうなその店で、
パソコン教室のささやかな打ち上げが始まった。

僕の実家があるような小さな街のお好み焼き屋というのは、
たいてい言えば何でも作ってくれるもので、
おでん、鯖のきずし、鳥のからあげ、サラダが
あっという間にテーブルに並ぶ。

どうやら親父は、
暇さえあればこの店に顔を出しているようで、
途中、店にやってきた客は、
「阪神、アカンかったなぁ!」
「また奥さんに内緒でゴルフ行ったんかいな?」
などと、みんな親父に話しかけてきた。

小さな街の小さな店で、
両親と、親父が仲良くしてもらってる人たちと一緒に
たわいもないことで笑ったあの瞬間。

なんだろう。久しぶりに楽しかった。
いつもは「緊張する」という嫁も、
後で聞いたら「今日は面白かった!」と笑っていた。

こう見えても僕も長男なので、
たぶん、心のどこかで心配していたのだ。

子どもが巣立った後の両親が、
ちゃんと明るく生きているかを。

仲間に囲まれて笑う親父。
それを見て、一緒に笑いながら茶々を入れるオカン。

そんな2人を見ている限り、どうやら心配はなさそうだ。
親は親で、ちゃんと人生を楽しんでいるではないか。
なんだか、少し吹っ切れた気がした。



 「さぁて、両親に負けないように、
 僕もいっぱい自分の人生を楽しむことにするかな」



そんなことを思いつつ、
「もしも一戸建てが買えたら犬が飼えるんじゃない?計画」について
嫁と二人で夢を語りながら、夜の高速を走って大阪に戻った。