No.1436 ハローワーク行きの電車

駅のホームで目を閉じると、
どこからともなくJR車掌の内輪話が聞こえてくる気がした。
 
 
車掌A「おっ、オマエ、いつのまに
   『雷鳥』なんて運転するようになってん?」
 
 
車掌B「いやいや、先輩みたいに
   『サンダーバード』を運転できるのはまだまだっすよ」
 
 
車掌A「まぁな。でも、エエ加減
   北陸以外にも行ってみたいよな。
   羽二重餅は食い飽きたわ」
 
 
車掌C「ちょっとちょっと、お二人ともまだいいですよ。
   ボクなんて、環状線担当ですよ。
   朝から夜までずっとグルグルまわってるだけで、
   たまに外回りから内回りになっただけで
   喜んじゃう自分が、なんだかせつないっすよ」
 
 
車掌A「それはそれで大変やなぁ」
 
 
車掌C「ボクだって、お二人みたいに駅飛ばしてみたいっすよ…。
   指定席の切符を拝見してまわりたいっすよ…」
 
 
車掌B「そうか、ごめんな。悪かったわ。
   環状線はたしかに大変やけど、
   たまにUSJの車両に乗れるからまだエエやん。な?」
 
 
車掌C「それはそうですけど…、ボクの同期なんて
   もう『トワイライトエクスプレス』乗ってるんですよ…」
 
 
車掌A&B「とっ、トワイライトエクスプレスっ!?」
 
 
車掌C「なんでも、就職活動の面接の時に
   『僕、ずっとコンビニで深夜勤務してました』って
   言ったことがきっかけで、適性が認められたとかで。
   深夜に人を運ぶって、なんかちょっとカッコ良すぎないっすか?」
 
 
車掌A「カッコいいもなにも、俺らの世代では
   トワイライトエクスプレスって言えば憧れやで。
   みんな銀河鉄道999に憧れて
   この仕事に就いたヤツばっかりやからなぁ。
   まぁ、今ではみんな夢破れて、
   交通資料博物館で働いてるけどな」
 
 
車掌B「先輩の時代って、厳しかったんですね…。
   それに比べたらボクらなんてまだいい方かも。
   でも、なんか…、やるせなくなってきましたね。
   僕、『雷鳥』やめて、阪急電車に転職しますわ。
   乗客にきれいなお姉ちゃん多そうですし」
 
 
車掌A「オマエ、本気か!?
   じゃあ、オレも京阪電車でおけいはんになるよ」
 
 
車掌C「ボクも…、地下鉄にでも転職しようかな…。
   環状線よりもマシそうだし」
 
 
車掌A「バカヤロー! おまえ、地下鉄なんか行ったら、
   運転なんていらなくなるんだぞ。
   決められた路線の最初から最後までを往復するだけ。
   そんな、決められたレールの上を走る人生でいいのか!?」
 
 
車掌B「せっ、先輩…、
   僕たち今でもレールの上を走ってると思うんですけど…」
 
 
車掌A「アホやなぁオマエは、精神面の話や!
   レールの上を走る仕事ではあるけど、
   人生までレールどおりに走る必要はないってことや!」
 
 
車掌B&C「せ、先輩…(涙)」
 
 
車掌A「ということで、俺は今からハローワークに行って来る。
   オマエら、どうする?」
 
 
車掌B「ボクも行きます!」
 
 
車掌C「ボクも!」
 
 
車掌A「よし、えーっと、
   『毎度ご乗車ありがとうございます。
   この列車は、大阪発 理想の国行きです。
   間もなく扉が閉まりますので、
   お乗りの方はお急ぎください』」
 
 
車掌B&C「わぁー、その列車、乗りまーす♪
   待ってくださぁい♪」
 
 
車掌A「ぷしゅー。それでは、出発進行ぉー!」
 
 
(このお話は、あくまで空想にもとづいたフィクションです)