No.5592 リーマンのワールドカップ

――本田さん、
  サッカーワールドカップ観戦の
  疲労の影響でしょうか?
 
  サラリーマン日本代表、
  どこか動きが鈍いですね。
  
  
  
「まぁ、みんな寝不足でしょうからね。
 しかも早朝にブラジルに負けたんで、
 余計に足が重くなってるんと違います?」
  
  
  
――さあ、ここでようやく
  前半戦の180分が終了しました。
  
  
  
「ひゃくぅ はちじゅっぷん~!?
  
 エグい運動量ですね。
 会社ってそんなにハードなんですか?」
  
  
  
――ええ、だいたい
  正午あたりで前半戦が終了しますが、
  スタートからは3時間以上は動くことになりますね。
  
  
  
「リーマンの皆さんも、
 けっこーエグいことやってるんですね。
  
 給水タイムとかは?」
  
  
  
――えー、ハイドレーションブレイクは
  特に設けられていませんが、
  各自がマイボトルで少しずつ給水はしているようです。
  
  
  
「日本って梅雨でしょ?
 ほんで、この湿度でしょ?
 ちゃんと水分をとらなきゃ死にますよ」
  
  
  
――おっしゃるとおりです。
  さて本田さん、前半戦の戦いを振り返っていかがですか?
  
  
  
「そうですね~、正直、
 いいところがほとんどなかったですよね。
  
 DFのあの4番、なんて言う人ですか?」
  
  
  
――4番は、経理の佐藤社員ですね。56歳です。
  
  
  
「めっちゃベテランさんですやん!
  
 ベテランがチームを引っ張らなきゃならないのに、
 佐藤さん、前半の途中から完全にデスクで寝てましたよ。
  
 その間に、仮払いの現金、
 営業部の人から狙われてたでしょ?
  
 あれ、隣の若い3番の子がカバーしてなかったら、
 確実に失ってましたよ」
  
  
  
――3番は同じく経理の富安社員ですね。
  つい最近までイギリスの企業に所属していたようです」
  
  
  
「へ~、そうなんや。
  
 富安さんはいいディフェンスでしたね。
 動きながらもずっと首を振り続けて、
 他部署からの無茶な要求を拒否してたでしょ?
  
 首を振るのって、カンタンなようで意外とムズいんですよ。
   
 彼みたいな海外を経験してきた若い人が
 もっと後押ししていかないと、
 後半戦の仕事は厳しいでしょうね」
  
  
  
――前半戦、攻撃の面はいかがでしたか?
  
  
  
「うーん、18番の~」
  
  
  
――18番は、上田社員、営業部です。
  
  
  
「上田さん、営業なら
 前線で仕事を獲ってこなきゃいけないのに、
 ちょっと守備に追われすぎてましたね。
  
 朝からずっと事務所で
 経費精算ばかりやってたでしょ?
  あれはもったいなさ過ぎるわ」
  
  
  
――この会社のエースストライカーだそうです。
  
  
  
「そうなんですか?
 だったら、周りももっとサポートしてあげなきゃ。
  
 上田さんのすぐそばに2人ぐらい人がいるでしょ」
  
  
  
――ええ、営業事務の前田社員と伊東社員です。
  
  
  
「本来はその2シャドーが
 上田さんの経費精算をやってあげなきゃいけないんですけど、
 それぞれ別の相手に捕まってしまってましたからね。
  
 ああなると、チーム全体が
 どんどん受け身になってしまって、
 無駄に走り回らされるから
 体力を消耗させられるんですよね」
  
  
  
――実際、選手たちは前半で
  かなり疲労しているように見えました。
  
  
  
「ハーフタイムって何分ですか? 後半は?」
  
  
  
――労働基準法どおり60分のハーフタイムです。
  それを挟んで、後半戦は300分の予定です。
  
  
  
「さぁんびゃ~っぷぅ~~ん??
  
 ちょっと日本企業、頭おかしいでしょ?
 イケイケドンドン過ぎですよ。
 そんなに集中力が持つ人なんていませんって」
  
  
  
――成果が出せないと、
  アディショナルタイムで
  さらに120分延長というケースもあるようです。
  
  
  
「はあ…? ホンマですか!?
 テレビやからって盛ってません?」
  
  
  
――いえ、いたって一般的な日本企業のケースです。
  
  
  
「そうか~。そうなんや~。
 いや~、なんとなく日本の弱点が見えてきましたね」
  
  
  
――どういうことですか?
  
  
  
「いや、日本って勤勉さや組織力はやたらと高いんですよ。
 フィジカルだって最近かなり上がってきたと思います。
  
 でも、世界で勝つにはサッカーで言うマリーシアとか、
 ずる賢さのようなものも必要なんですよね」
  
  
  
――今のサラリーマン日本代表には、
  そういうずる賢さが足りないと?
  
  
  
「足りない足りない、まったくない。ゼロ以下でしょ。
  
 今日なんてみんな寝不足なわけですから、
 出勤なんてしなくていいんですよ。
 『家族が熱を出した』とか
 テキトーに言い訳を作って家で寝てればいいのに」
  
  
  
――なるほど。
  日本の長所であるアジリティーや
  俊敏さを落としてまで戦うぐらいなら、
  体力を温存した方がいいと。
  
  
  
「そういうことですよ。
  
 あ、佑都みたいに
 ほとんど試合に出てない奴はいいんですよ。
  
 でも、リーマンって平日に何連戦もするんでしょ?」
  
  
  
――職業にもよりますが、だいたい5連戦か6連戦です。
  
  
  
「そんなに毎日試合してたら、
 冗談抜きで死にますよ。
   
 ほんで、みんな死んでもたら、一体誰が戦うんですか?
 寝不足で戦ってる場合じゃないですって」
  
  
  
――たしかに、人生はその日の1試合ではないですから、
  サラリーマン日本代表は少し無理をしすぎかもしれません。
  
  
  
「少しじゃないですって、
 世界基準からしたら到底考えられないレベルですよ。
 やっぱり、そこが世界との差じゃないですか」
  
  
  
――早朝のブラジル戦、
  先制したものの、結果は1-2と
  やはり世界との差を痛感させられました。
  
  
  
「でしょ? 僕もずっとNHKさんで
 解説をやらせてもらって観てましたけど、
 あと一歩までは追い詰めましたよね。
   
 でも、その一歩が世界との差なんですよ。
  
 前大会も、その前の大会も、
 毎回『もう少しで』『惜しかったね』という
 ゲームはしているんですけど、
 なぜかあと一歩の距離を詰められない」
  
  
  
――ズバリ、その一歩の差を詰めるには?
  
  
  
「ぶっちゃけ、サボることですよ。
  
 これはリーマン代表の皆さんにも言えることですけど、
 日本人って真面目すぎるんですよ。
  
 もちろん、だからこそ
 組織力があるのもわかるんですけど、
 それでも差が詰まらないなら
 やっぱり世界の真似をしなきゃいけない」
 
 
 
――なるほど、
  世界の真似をするという点については、
  今朝セルジオさんも似たようなことをおっしゃってました。
 
 
 
「フェアプレーをして、ゴミまで拾って、
 ロッカールームまで片付けて、ですか?
 
 世界の中で好感度だけを上げたいなら
 全然今のままでいいんです。
 日本らしく美しくやれば。
 
 でも、本当に世界で頂点を獲りたいなら、
 汚い真似も必要です」
 
 
 
――それは、サラリーマン代表の皆さんにも言えると?
 
 
 
「もちろんです。
 だからみんな、もう今日は帰ったほうがいいですね」
 
 
 
――おっと、そうこうしているうちに
  後半戦に向けて選手たちが事務所に戻ってきました。  
  どうやら選手交代はなさそうです。
 
 
 
「アカンアカン、絶対アカンって!
 寝不足でしょ? 後半300分でしょ? 本気ですか?
 頭おかしすぎますって」
 
 
 
――いえ、そうはわかっていても、
  体は勝手に仕事に向かってしまう
  サラリーマン日本代表ぉ~!
 
 
 
「…いやいや、だから、」
 
 
 
――フラフラな体にムチを打って~、
  家族のために! 会社のために!
 
  眠気と戦いながら、再び後半戦のキックオフです!!