No.3014~3016 夏休みの家族旅行(鳥取~香住~城崎)

●今日のおはなし No.3014●

  「うわぁ、完全に台風直撃やな…」

待ちに待った夏休み。

今年はわりと早めに旅行の計画を立てたのに、
休み中の天気予報は最悪の“台風”…。

すでに宿をキャンセルできる時期も過ぎていたので、

娘と近所の神社で
「晴れますように!」とお祈りをしてから
「えーい!後はなるようになれ!」と
思い切って自宅を出発した。

去年の夏旅行では紀伊半島を一周したけれど、
今年の旅行は、
鳥取から兵庫県の日本海側を巡り、
(記者会見での約束どおり)城崎温泉に寄りながら
大阪に戻ってくるというルートだ。

まずは鳥取をめざして西へ。

中国自動車道を走っている途中、
晴れ→ゲリラ豪雨→晴れ→ゲリラ豪雨…と
厚い雲に何度も繰り返し遭遇した。

ワイパーで雨を拭うように走りながら
走行ルートをカーナビに相談すると、
「鳥取に行くには佐用で高速を下りて
 北へ走る無料道路へ乗れ」と言う。

佐用か~、ん、佐用…?

  「よし! こんな機会じゃないと
   わざわざ佐用町なんて来ないだろうし、
   鳥取に行く前に
   “ひまわり畑”を見て行こか!」

佐用町といえば、
関西でも有数のひまわりの里。
 
完全に思いつきのアイデアだったが
家族も特に反対しなかったので、
僕の独断でちょっと立ち寄ることに。

幸い、佐用町の空は晴れていて、
あたり一面sunny-yellowな
満開のひまわり畑を楽しむことができた。

そこから山間部を北上して、鳥取へ。
プライベートで鳥取に行くのはこれが2度目だ。

1度目は、今から10年以上前、
転職して新しい会社に入る前に
一人旅へ出かけた時だった。
https://sunnyyellow.ciao.jp/ohanashi/506

 「よく考えれば、あの時のルートも
  鳥取から城崎やったっけ?
  新天地を選んだ年に限って
  鳥取に行きたくなるなんて不思議だなぁ」

10年前とは違い
無料の高速道路が整備されていたこともあり、
佐用町から鳥取砂丘まではあっという間に到着。

「さてと、いざ観光へ!」と車を停めた瞬間、
ずっと涙を我慢していた曇り空が
ここぞとばかりに一気にザーッ!っと泣き始めた。

 「あーあ、せっかく子どもたちに
  でっかい砂丘を見せてやれると思ったのに…」

と嘆いても仕方ない。
天気予報からすれば、
ここまで天気が持った方が奇跡だったから。

しかし、半ばあきらめて
鳥取砂丘を後にしようとしたその瞬間、
本当の奇跡が起きた。

雨が急にやみ、
空から晴れ間が見えてきたのだ。

 「よーし、神様にお参りした甲斐があった!
  今や!お前ら、砂丘に行くぞ~!」

元々、「さきゅうにいきたい!」と
言い出したのは子どもたちだったけど、
彼らは公園の砂場程度でも想像していたのか、
初めて見る砂丘のデカさに驚いていた。

しばらく砂丘で遊んだ後は、
一泊目の宿泊地となる
「香住(かすみ)」の民宿へ。

香住を選んだ理由は他でもない。
僕が昔両親に連れて行ってもらって、
海がとてもきれいな記憶が残っていたからだ。

数年前ぐらいからかなぁ。

無意識ではあるんだけど、
かつて親が選んだ旅先を
いつのまにか同じように選んでしまっている自分がいる。

なんだかんだ言って
親と自分の思考が似ているのか。
それとも、
僕が幼い記憶を辿ろうとしているだけなのか。

 「うーん、俺は一体何を探しているんだろう?」

畳の上ですやすやと眠る家族を眺めつつ、
一家の大黒柱に成長した自分を改めて実感しながら、
海岸近くの素朴な民宿で
静かな夏の夜を過ごした。

●今日のおはなし No.3015●

(昨日の続き)

旅行2日目。

台風はどんどん
日本列島に接近してきていたけれど、
朝起きると、不思議と雨は降っていなかった。

きっと、娘のウインクが神様に届いたのだろう。
静かな波が漂うのんびりとした砂浜で、
出発前はあきらめかけていた海水浴を
存分に楽しむことができた。

昼を過ぎ、
段々と空模様が怪しくなってきたので、
2泊目の宿泊地となる城崎温泉へ移動。

旅館に到着した頃には、案の定、
ザーザー降りの雨に見舞われたけれど、
浴衣に着替えて外湯巡りに出かける時には
雨がピタッと降りやんだ。

夕方、温泉を楽しんだ後、
浴衣姿のまま辺りを散策。

歩いてみて改めて思ったけれど、
城崎って本当に風情がある街だ。

水路も、柳も、商店も、
決して派手ではないけれど、
日本独特の奥ゆかしい品を感じる。

娘と手をつないで歩いている途中、

 「この街ってきれいやろ?」

と娘に聞いたら、

  「うん、げたのおとがきれいやなぁ」

と娘。

言われてハッとした。
景色ばかりに気を取られていたけれど、
娘の言うとおり、カランコロンという
下駄の奏でる音が本当にきれいで。
「やっぱり子どもの感受性には負けるなぁ」と思った。

その後、部屋で夕食を食べている間は
雨がザーザー降っていたけれど、
これまた不思議と、
夜の時間だけは雨がぴたっとやんだ。

 「おっ! やった!
  お祭りに行けるやん!」

夏休みのこの時期、
城崎温泉では毎晩夏祭りが開かれていて、
神社には屋台が出て、
川のそばでは花火も打ち上がる。
「子どもたちの夏の思い出になれば」と、
宿を予約した時から楽しみにしていた。

一旦は雨であきらめかけていたけれど、
夕食後、すぐに祭囃子の聞こえる神社へ。

境内で屋台を楽しんだ後、
水路の上にかかる橋の上で、じっと花火を待った。
そして、その瞬間がやってきた。

  ドーン! ドドドーン!!

真夏の夜空に浮かぶ七色の閃光。

今年初めての花火を眺めながら、
どや顔で子どもたちに
「きれいやろ?」と聞こうとしたら、
娘が手で耳をふさいで泣いていた。

   「どぉーんが、こわい~~!!(涙)」

へ? きれいじゃなくて、こわい??

最初は意味が分からなかったけれど、
どうやら花火の音が怖いということらしく…。

仕方なく、嫁と息子を残したまま、
泣きじゃくる娘を抱っこして
旅館の部屋に戻った。

ということで、
楽しみにしていた花火の鑑賞時間はわずか10秒。
夏好きの僕にはとても残念だったけれど、
愛娘が泣くならこれも仕方ない。

 「ああ、これもいつかは
  笑える思い出になるかな…」

そんなことを思いながら、
いつのまにか布団が用意された部屋で
ずっと娘の耳をふさいでやった。

歴史ある木造の和室。
表で花火が打ち上がるたびに、
壁や床から微かな振動が伝わってくる。

目を閉じて、
壁の向こうから聞こえてくる「ドーン」という音を
耳で味わう夏の花火は、
それはそれで趣があった。

●今日のおはなし No.3016●

(昨日のつづき)

旅行3日目。

前日までの幸運の反動か、
朝からたっぷりと雨が降っていた。

テントショップボーイさんの
花火キャッチではないけれど、
空を見上げたら、昨日の花火はもう無かった。

朝飯を終え、
老舗旅館に別れを告げた後は、
温泉街の近くの海沿いにある水族館
「城崎マリンワールド」へ。

雨の中、潮風が吹く駐車場に到着すると、
昨日までの穏やかな波が嘘のように
東映映画のオープニングのような荒波が
日本海の岩場に打ち寄せていた。

暴風で傘を持っていかれないように
しっかりと握りながら、
急いで水族館の館内へ。

ココ、噂には聞いていたけれど、
旭川動物園で有名になった生態展示のノウハウを
取り入れた工夫があちこちに施されていて。

「見られる」のではなく「魅せる」水族館というか、
見学して回るというよりは
次々用意されるアトラクションを体験していく
ツアー的感覚で楽しむことができた。

大阪から場所は少し遠いけれど、
時間をかけて行くだけの価値は
それなりにあるかもしれない。

釣り体験コーナーで
生まれて初めて魚を釣った息子は、
やたらと上機嫌だった。

それから数時間後。

時間を忘れて楽しんでいるうちに
いつのまにか雨風が強くなってきたので、
帰れるうちに城崎から退散することに。

水かさがどんどん増していく円山川を横目に
急いで車で南下しながら、
そこからはほぼ下道で大阪をめざした。

帰りの道は、車のワイパーが
追いつかないぐらいのどしゃ降り。
旅の計画をすべて終えた今となっては
なんだかそれもちょっと楽しかった。

砂丘、海水浴、花火、
予定していたイベントは
全部晴れてくれたから、
今回は本当に幸運な旅だったと思う。

ちなみに幼い頃、
僕が親に日本海まで連れて行って
もらった時の記憶は、ほとんど残ってない。
せいぜい、親父と浜辺で釣りをした記憶程度で。

息子も娘も、きっといつかは
今回の旅をあっさり忘れてしまうだろう。
まぁ、そんなものさ。

そんなものとは分かっていながらも、
少しでもいいから何かが彼らの中に残るように、
今日もひたむきに子ども心を刺激する
サプライズを積み上げていく。

それが、親というものなんだろう。

そうして、今の僕があるのだろう。