No.4773 令和昔話

 
 
    「令和昔話」
 
 
そうじゃのぉ、
ワシが生まれたのは
「昭和」という時代じゃったが、
今とは随分違ってのぉ。
 
何もかもが今よりも粗い感じじゃった。
 
高度経済成長期の成功体験もあってか、
男はとにかく働き、女はそれを家で支えた。
 
今思えば、男女平等なんてものとはほど遠かったが、
誰も皆それを疑うことなく、
自分の役割に一生懸命じゃった。
 
とにかく精神力があればなんとかなると
本気で信じられていて、
「24時間、戦えますか?」という広告が流行ったり、
部活動でも根性練習や体罰は日常茶飯事じゃったなぁ。
 
当然、ケータイ電話なんてものはない。
みんな、誰かに連絡する時は自宅に電話をかけ、
友人や恋人を呼び出してもらっていたんじゃ。
 
外で待ち合わせする時も、
約束の場所と時間を決めたらあとは待つだけ。
相手が遅れても、来なくても、
ひたすら待つだけじゃった。
 
なに? 信じられない?
そうじゃろうなぁ。
でも、本当にそうだったんじゃよ。
 
今の時代に生まれたオマエらからしたら
不便に感じるかもしれんが、
昭和はそれが当たり前じゃった。
 
不便はあっても、
それをどうにかしようと考えたり、
笑い飛ばそうとしたり、
逆境があるからこそ楽しい時代じゃった。
 
まるで、パンクした車で走っているかのように
一筋縄ではいかない毎日じゃったけど、
人々はむしろ、パンクで車がガタガタ揺れるのを
笑って楽しんでいる感じじゃった、
 
 
そんな昭和の雰囲気が少し変わってきたのは、
「平成」になってからのことじゃ。
 
バブルやらITやらインターネットやら、
それまでの日本にはなかったものが
たくさん登場してきてのぉ。
 
人々の生活は格段に便利になったし、
どこかスマートにもなったんじゃ。
 
「体で汗をかく」よりも
「頭を駆使する」ような仕事が人気を集め、
ビジネスで一攫千金を手にする者も増えた。
 
ただのぉ、金持ちが増えたぶん、
流行についていけない者の中には
貧乏者や社会から取り残される者も増えたんじゃ。
 
「人と人との距離が離れた」と言うのかのぉ。
 
みんなプライバシーとやらを意識し始め、
核家族も増え、個人情報の名のもとに
相手の住所や電話番号さえ
簡単には教えてもらえないようになったんじゃ。
 
いつしか人生の安定だけが目標になり、
貯蓄と健康ばかりがもてはやされるようになった。
 
健康を害するタバコなんて、一番の嫌われ者じゃ。
 
昭和の時代はどこでもみんな吸っていたが、
平成は徐々に圧力がかかり、
分煙、禁煙が進んでいったんじゃ。
 
そんな風潮を真似するように、
人々もまるで煙を避けるかのように
自分とは関係ない人間を避けるようになった。
 
同じ屋根の下で暮らすマンションは
どんどんやたらと建つくせに、
隣に誰が住んでいるかも知らない。
そんな風に暮らしが変わっていったんじゃな。
 
ケータイ電話やインターネットが普及したから、
直接合わなくてもよくなった影響もあったのかのぉ。
人と人の関係は徐々にデジタルに置き換えられ、
付き合いはどんどん冷たくなっていったんじゃ、
 
平成は昭和のように粗くはなかったけど、
まだまだ洗練されているとまでは言えない、
なんとも中途半端な感じじゃったな。
 
みんな外ヅラだけカッコよく装って、
内面では苦労している。
 
楽しい奴は楽しいけど、
楽しめない奴はずっと楽しめない。
 
そんな風に世界が分断された時代じゃったのぉ。
 
 
平成は意外と長くて、
たしか30年ぐらいは続いたんじゃったか。
 
「令和」がやって来た時は、
やたらと新しい感じがしたもんじゃ。
 
今の時代?
 
そうじゃのぉ、
まだ4年程度じゃからよくわからんが、
感覚的には「静かな激流」を眺めている感じかのぉ。
 
毎日、地球のどこかで
ものすごく大きなことが動いているのに、
まったく音がしない。熱も感じない。
でも、ネットを見ればたしかに動いている。
 
日常をデジタルで確認するようになった
ワシらの今の暮らしは、
まるで現実と非現実が逆転したかのようじゃ。
 
そのうち、人生の答えも
ネットで探すようになるんじゃろうか?
 
そりゃ、便利は便利じゃが、
ワシはどこか昭和が懐かしいよ。
 
あの頃はうるさいほど音がした。声が聞こえた、
熱も感じたし、叶わないからこそ夢も広がった。
あれはあれで、悪くなかったけどのぉ。
 
まぁ、いくらそんなことを言おうが、
川の流れが変わらないように、
今さら時代の流れは変わらん。
 
風にこの身を任せて、
今日もテキトーに生きることにするわい。