No.335 16歳のクリスマスストーリー
12月がやってきた。
師も走るほど忙しい、この月が。
クリスマスやら忘年会やらカウントダウンやら、
とにかくこの月は忙しい。
毎年12月になると、
高校に内緒でバイトを始めた時の失敗を思いだす。
前にも話したことあるかもしれないけど。
当時の彼女にクリスマスプレゼントを買うために、
僕は12月からビフテキ屋でバイトを始めた。
学校が終わって部活で練習をして、
部活が終わったらバイトして、
とにかく金をためるために
とてつもなく忙しかったのを覚えている。
忘れもしない、12月23日。
いつもどおり11時ぐらいに
バイトの先輩と一緒に帰ろうとしてた時に、
「イブの日学校昼までやろ。シフト入ってくれへんか?」
とチ-フに言われた。
「え…?」
よくよく考えれば当たり前のことで、
入ったばかりのペ-ペ-が、
一番忙しい日に休めるはずなどなかった。
でもそれまでの僕の頭の中には、
イブの日 彼女と幸せに過ごしている
淡いイメ-ジしかなかった。
12月24日。
終業式が終わると、
僕は彼女のところに行って(同じクラスだったのね)事情を話した。
彼女は怒って、プレゼント用に買っていた
緑のマフラ-を僕に投げつけて走り去った。
…。
午後のバイトはブル-一色だった。
いつもどおりワインボトルを磨いても
グラスを並べても気持ちがのらない。
頭の中は、彼女のことで一杯だった。
15:00。
夜の準備のために、一度店を閉める時間がきた。
店先の札を「CLOSED」にした後、
みんなで店のソファに座ってコ-ヒ-タイム。
僕は終始下を向いたままだった。
そんな時、
山田さんという先輩が「おい!」と僕を呼んだ。
顔を上げると、
チ-フも先輩も、みんな僕の方を向いて笑ってた。
「行ってこい。ただし、夕方には戻れよ(笑)」
チ-フが僕にそう言った。
「よっしゃ-行け~!」
先輩が僕の着ていた制服を脱がし始めた。
「はい!」
僕はどうしようもない笑顔で
店を飛びだした。
30分後。
僕は彼女と一緒に、
彼女の家の近くの公園にいた。
彼女はまだ少しふくれていた。
何度も謝って、1時間。
やっと彼女が笑ってくれた。
時計を見ると、16:30。
夕方までは時間がなかった。
「ごめん! 夜にまたここで会ってくれる?
絶対戻ってくるから!」
僕はまた急いで自転車に乗った。
彼女は笑って手をふった。
店についたのは開店の5分前。
みんなに歓声で迎えられた。
「よっしゃ-、働こか-!」
チ-フが叫んだ。
夜のバイトは快調だった。
店にやってくるカップルに
はりきって白ワインをつぎまくった。
22:30。閉店。
僕は急いで着替えをすまして、公園に向かった。
チ-フがくれたシャンパンを片手に、
緑のマフラ-を首にまいて。
23:00。夜の公園。
二人でベンチに座りながら、
ポケットから取りだしたロウソクに火をつけた。
「きれ~い!」
橙色の光に揺れる彼女の顔。
シャンパンをあける栓抜きは忘れたけれど、
僕達は幸せだった。
今でもロウソクを見るだびに、
ビフテキ屋のみんなの顔、彼女の顔を思いだす。
12月。
みなさん、
今世紀最後の素敵な思い出を作りましょうね。