No.701 変わる家 変わらない人
去年の夏も、その前のゴールデンウィークも、その前の冬も。
実家に帰るたびに、必ず、ぜ〜ったい、百っ発百中ぅ、
家の中の何かが変わってるのだ。
この正月は元旦に帰郷した。
「ぜったい、また変わってる。ぜったい…」などと呟きながら、
実家の扉を開けると…、ほら、やっぱり。
いきなり玄関の隅に奇妙な“傘立て”が。
…いらんやろ、こんなモン。
「…ただいま〜。」
「あぁ、お帰り♪ 寒かったやろ?」
急いでダイニングのヒーターをつけにいくオカン。
その隙に、我慢してたからとりあえずトイレに。
…、なんじゃこりゃ。
明らかに便器が変わってる。
便座がウィ〜ンという音をたてて「ほら、来いよっ」って呼んでるし。
間違いない。“ウォッシュレット”だ。
用を足しながら途方に暮れる。
ウチみたいな一般庶民に、ウォッシュレットなんて必要か…?
トイレから出てオカンにひとこと。
「どないしたんよ、アレ。」
「買うてん。」
「それは分かってるわ。なんでまた…」
「便利やろ♪」
話が前進しないのですぐにやめた。
とりあえず上着を脱いで、オカンがつけたヒーターで暖をとる。
…ん? ヒーター?
そう言えば、こんな所にヒーターなんて無かった…。
これも買ったんかぁ?
「これは?」
「よー温もるやろ♪ ま、とりあえずこの水飲み。」
「なんよ、この水?」
「“魔法の水”や。便秘なんてスグ治るで。」
魔法の水!?
目の前に置かれたガラスコップ。
イヤな予感がして、台所の奥を見やる。
「…まさかアレ、浄水器とちゃうよな?」
「ピュア・ウォーターや。」
「浄水器やんけ!」
僕の戸惑いなど何も気にせず、
台所の前で自慢の太極拳を披露し始めるオカン。
変わってないものが、目の前に一つだけあったわ。
いつまでも変わらないことを祈りつつ、魔法の水を飲む。