No.1421 月旅行のロケットはまだ飛ばない

 「オマエらが大人になる頃には、
  月に旅行へ行けるようになるぞ」

近所のおじさんにそう言われたのは、
今から20年も前のことだ。
 
どうやったらそんな時代が訪れるのかなんて
幼い僕には分からなかったけど、
いつか、誰か偉い大人がそんな夢のようなことを
可能にしてくれるもんだと思ってた。

月日が流れ、生きてさえいれば、
僕も「21世紀」という未来を体感できると。
 
そんな時、近しい友人がこの世を去った。
15歳の夏だったと思う。

眠ったように動かなくなった友人の顔を見て、
生きることは約束されたもんじゃないことを初めて知った。
 
いや、頭では人間に死が訪れることぐらいは
知っていたのかもしれない。
ただ、その時初めて「理解した」。
 
彼の人生はそこで止まったけれど、
僕の人生はその後も続いた。

でも、やっぱり僕はバカだったのだろう。
死の存在を理解しながらも、まるでその恐怖に開き直るように
高校、大学、社会人と、思うがままに生きてきた。
 
時は勝手に流れ、時代は勝手に誰かが変えてくれるものだと
思っていたのだ。相変わらず。
 
2006年になった今、
僕らが気軽に月へ旅行できるようなロケットは
まだまだひとつも飛んじゃいない。
 
そのうち誰かが実現してくれるのかもしれないが、
僕をはじめ、みんながそう思っているうちは、
いつまでたっても飛ばないんだろう。
 
あの時、永遠の別れを告げた彼が今の僕を見たら、
何と言うだろうか。
生きることを無駄にするな。自分で変えろ。
そう怒るだろうか。
 
世間的に「大人」と呼ばれる存在になった今も、
僕ときたら、相変わらず自分のことしか考えてない。

地軸がいつも足下にあるわけじゃないのに、
自分中心の世界観を妄想してばかり。
 
恥ずかしいね。生きることって。

カンペキな人間なんていやしないけど、
そうやって逃げる自分が恥ずかしい。