No.5493 我が家版 IT革命2025 〜両親 vs ChatGPT~
昨年末、
いつもより早い時期に帰省して、
久しぶりに高校の仲間たちと集まった。
16歳の頃から飲み会をやってきた奴らも、
もう50代。
みんないい歳になっていたけど、
外見も中身も昔と変わらないままで、
バカ話をしながら旨い酒を飲んだ。
飲み会を終え、
実家に着いたのは午前様。
いつもは酒を飲んで
すぐに寝てしまう親父が珍しく起きていた。
「なんや、起きてたんかいな」
「おぉ、帰ったか…。
なんか足が痛くて寝られへんのや…」
親父の言葉に心当たりはあった。
僕が昼頃に着いた後、
「おお、米持って帰れ!」と
張り切って30kgほどの米を
精米しに出かけていたんだけど、
その後ぐらいから「なんか足が痛い…」と言っていたので。
「慣れへんことするからや。もう寝るで」
親父にそう伝えて、
その夜は飲み会の楽しい余韻を
引きずったまま眠った。
翌朝。
布団を敷いていた客間の襖を開けて、
わりと早めにオカンが起こしに来た。
「もう、起きてる?」
「…何よ? まだ早くない?」
「お父さんが『死ぬ!呼んで来てくれ』って言うから(笑)」
眠い目をこすりながら2階に上がると、
寝室のベッドで親父が横たわっていた。
「おお、すまんの…。なんか痛いんや…。」
「どこがどう痛いんよ?」
「ここの足の付け根がズキズキしてな…。
筋肉をやったかな…」
親父が手でさすったあたりを一応見てみたけど、
特に腫れても変色してもいない。
ただ、筋を違えたにしては
痛がり方がおかしいような気がした。
「これ、一応医者に診てもらった方がいいな」
「おぉ…、頼むわ…」
親父は昔から大の病院嫌いである。
一時期入院した時も、
会社の部下を呼び出して
営業車で脱出してきたぐらい。
その親父が病院を希望するのだから、
痛みは相当なものなのだろう。
隣で聞いていたオカンが
少し笑いながら口を開いた。
「もぉ、お父さん、たいそうやな~。
こんな年末に病院なんて空いてへんで」
「どっかあるやろ!はよ探してくれ!死ぬ!」
「はいはい、もぉ~どうしよ…」
年老いた親たちの非建設的な会話を聞き、
「これ、俺がいなかったらどうしてたんやろ…?
ホンマ、良いタイミングで帰省したわ」と思った。
「オカン、とりあえず#7119に電話して」
「しゃーぷ7119?何やのそれ?」
「おい!救急車は呼ばんでエエぞ!!」
「違うがな。
救急車呼ぶかどうか迷うような時とかに、
まず相談に乗ってくれるダイヤルや。
そこに電話してから症状を伝えて、
年末診てくれる病院を教えてもらい」
そこからは電話をオカンに預け、
親父の通訳をする形で#7119の人と話してもらった。
T
「(はい、はい、ありがとうございます)
K市じゃなくT市の整形外科になるけど、
9時からなら診てくれるって」
「ホンマか?整形外科でエエんか?」
「電話の人が
『症状からは病気の判断ができないから、
まずは整形外科で』って言うてたわ」
まぁ、腫れも熱もないなら当然か。
その後も親父が
「痛い!」「死ぬ!」「なんやこれ!」
ばかり言ってうるさかったので、
僕は親父のスマホにアプリを入れ、
ドラえもんの気分で差し出した。
「気になることを、これにしゃべっておき」
「…なんや、コレは?」
「ChatGPT、AIさんや」
親父がやかましい理由は、
痛みの原因がわからなくて不安だから。
それなら、少しでも
原因がわかれば落ち着くだろうと思い、
僕はのび太にアイテムを与えるように
親父に操作方法を教えた。
「検索ワードを入れるんじゃなく、
LINEで話すように入力してみ」
「えーっと、こうか?
『足の、付け根、が、痛い』
おぉ!なんか出てきたのぉ」
「そうやって会話しながら絞っていけば、
多少は原因もわかるんとちゃうか。
じゃ、ちょっと朝飯食うから」
ベッドの上でChatGPTに夢中になる親父を置いて、
僕はオカンと1階の食卓に戻った。
しばらくすると、親父から僕のスマホに
ChatGPTのスクショが送られてきた。
普段は新しいことへ慣れるのに
時間がかかる親父だけど、
窮地の時は話が別のようで。
どうやら一生懸命
ChatGPTに話を聞いてもらい、
かなり綿密なキャッチボールをした上で、
少なくとも変な病気ではないことが
わかってきたようだった。
急に親父の気分が落ち着いて
病院へ行く気力が失せそうだったので、
AIは100%ではないことを説明し、
僕の車に乗せて病院まで強制搬送した。
紹介された整形外科は、
年末で休業日だというのに
多くの患者でにぎわっていた。
少し待ってから診察してもらったものの、
整形外科で分かることは限られている。
とりあえず、
骨が折れていないことと
腱を傷めていないことはわかったものの、
詳しい原因はわからないままで。
併設されている調剤薬局で
痛み止めの頓服薬と塗り薬をもらって車に乗り込んだ。
「よし!薬は手に入った!これでもう大丈夫や!」
さっきまでのテンションが嘘のように明るくなる親父。
とにかく薬さえあれば大丈夫。
昭和育ちの年寄りが陥りやすい錯覚だけど、
僕は原因がわからないまま
年越しをさせることの方が不安だった。
とは言え、
理由もわからないまま
看病していても仕方ないので、
午後には両親を家に残して大阪に戻った。
その翌日。
実家の様子が気になって連絡してみると、
大量の画像が送られてきた。
親父の足には大量のブツブツが…。
「…塗り薬が合わんかったのか、
なんか皮膚がえらいことになってきた…」
「いや、これさ…、帯状疱疹じゃないの?」
「違う!さっきChatGPTに画像も見せたけど、
『帯状疱疹の可能性は低い』と言うとった!」
いつのまにそんなに
AIと仲良くなってるねん。。。
まぁ、ChatGPTが調べてそう言うなら
可能性は低いのかもしれないけど、
写真の撮り方によっても変わるしなぁ。
それ以降、年が明けるまで
親父の症状はどんどん悪化したらしく、
もう、文句を言う元気もなくなったそうだ。
少し痛みが引いたあたりで
本人から連絡があったので、
「それ、どう考えても外科系じゃないから、
月曜になって病院が開いたら
内科系の医者に診てもらい」とだけ伝えた。
そして、昨日。
親父から連絡があったところによると、
やっぱり帯状疱疹だったらしい。
そりゃ痛いはずだわ。まぁ、静養してくれ。
AIに頼り、AIを信じ、
AIの予想が外れた今、
これからの親父はChatGPTと
どう向き合っていくんだろうな?
少なくとも、
年寄りの話し相手としては
かなり優秀なパートナーだと思うので、
息子としては仲良くしてほしいところだけど。
近いうちに、
看病と「AI応用編」のレクチャーのために
帰ろうかなと思うよ。





