No.923 航空会社にハイジャックされた日

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朝5時。
眠い目をこすりながら窓を開けると、
空がどんよりと曇っていた。

今思えば、その時から予感はしていたのだ。
「今日はなんだか、悪い日になるな」って。

午後までに鹿児島に向かうため、
伊丹発、朝イチの飛行機に乗り込む。
離陸した後、僕は航空会社の冊子を眺めながら、
快適な空の旅を楽しんでいた。

その時である。
さっきまで女性のアナウンスしか流れなかった機内放送から、
突然男性の声が…。どうやらこの便を操縦している機長かららしい。

機長がこの後言いはなった一言から、
すべての悪夢は始まった。



 「えー、みなさん、
  どうやら鹿児島上空が雨でむっちゃスゴイことになってて、
  着陸したらめっさヤバイので、福岡空港で勘弁して」



何っ!? 福岡???
なんでそうなるの?

鹿児島と福岡じゃ、仙台と札幌ぐらい違うだろ。
どうすればいいんだ!

そんな僕たち乗客の動揺をよそに、
続いてスチュワーデスがアナウンスする。



  「ただ今からこの便は、宮崎上空を旋回し、
   福岡空港へ向かっちゃいます。
   なお、到着後の詳細については、
   地上のスタッフから説明させていただくので安心してね♪」



安心できるか、ドアホ!
こっちは午後までに鹿児島に着かなアカンねん。
こんなの、航空会社のハイジャックだー!

そんな声も機体が雲にぶつかる音でかき消され、
約1時間後、僕たちは福岡空港に強制着陸させられた。

初めて知ったのだが、こういう緊急の場合、
機内と空港をつなぐ車はやって来ない。

生まれて初めて滑走路に直接降ろされ、
とぼとぼと福岡空港内へ移動した。
 
その後はといえば、福岡空港で3時間待たされ、
午後イチの便でやっと鹿児島へ移動。
バスで1時間かけて鹿児島市内へ到着した時は、
すべての予定が狂っていた。

帰りの飛行機のチケットも
間に合わずにキャンセルするはめに…。

向こうで会った地元の人が、
皮肉にも快晴になった空の下で、落ち込む僕にこう言った。



  「天気のせいで仕方ないとは言え、大変でしたね」



そう、そうなんだ。
誰を責めても仕方ないんだ。
一瞬だけ、冷静さを取り戻す。

しかし、次の瞬間、その人が放った言葉が、
僕のダメージを増幅させた。



  「でも、あなたの便以外は、
   無事鹿児島空港に着陸したのにねー。アンラッキーでしたね」



何? マジで?

よくよく聞いてみると、
僕の10分前に伊丹を出た便、50分後に出た便ともに、
なんの支障もなく鹿児島に着いたとか。

数分の差でそれほど天気が変わるかずがない。
なぜだ、なぜ僕たちの便だけ…。

なんとか手配した帰りの飛行機に乗り、
ぐったりと疲れた体をシートに沈めながら思った。
絶対にあれは、機長が小心者だったんだと。

もっと職人気質な機長なら、
「雨でも矢でも降ってきやがれ!
 俺は代々50年、着陸時間を遅らせたことはねぇんだ」と
絶対に間に合わせてくれたに違いない。




帰りの空の旅は、楽しむ余裕もなかった。
疲れた、いろんな意味で、疲れた。

遠くを見つめながら放心状態になっている時、
機内放送が流れだした。



 「みなさま、ども、私、機長です。
  大阪上空がめっちゃやばい感じなので、
  もしかしたら徳島で休憩するかもしれません。
  どうするか決まったら、また連絡します」



僕は黙って、
この世に別れを告げるように目を閉じた。