No.2362 市バスより狭い飛行機で
飛行機で出雲空港に着き、
バスで松江へ。
出張恒例の飲み会に備え、
今はホテルで体力を温存しているが、
今日のフライトは気が休まらなかった。
伊丹空港に着いてから
「あ、座席指定するの忘れてた」と思い出し、
JALカウンターの姉ちゃんに聞くと
「非常口付近しかございませんが、
窓側と通路側、どちらになさいますか?」
と尋ねられた。
「(空が見たいから♪)
えーっと、窓側でお願いします」
と言って座席を取ってもらうと、
チケットに「6C」という文字が。
最初は気にせず手荷物検査を済ませ、
発着ロビーで便を待っていたんだけど
だんだんその文字が気になってきた。
「ん? 『窓側』って言わなかったっけ…?
A、B、C…、3つ目っておかしくない?」
普通、
1列に3人(A・B・C)+3人(D・E・F)なら「A」か「F」、
狭いボンバル機で2人(A・B)+2人(C・D)でも
「A」か「D」。
Cはあり得ない。
「あの姉ちゃん、通路側と間違ったな〜」
と思って飛行機に乗り込んだら、
姉ちゃんは間違っていないことがすぐにわかった。
なんと、出雲空港行きは
1人(A)+2人(B・C)だったのだ。
僕も飛行機は結構乗る方だけど、
いくら狭くても2人+2人がミニマムだった。
1人+2人って…、市バス以下やがな。
列数も少ないその超コンパクトな飛行機は、
良く言えば「乗客との距離が近い自家用機」のような、
悪く言えば「近所のおじさんが運転するマイクロバス」のような感じ。
よく見ると
非常口付近だけ席が空いていて、
なんだか嫌な予感がした。
「お客様、お客様?」
「は、はい…」
「この座席に座られた方は
非常時にお手伝いいただくことになりますので、
このマニュアルをお読みください」
JALが経営難ということもあるのだろう。
かなりおばちゃんのキャビンアテンダントに
マニュアルを渡されると、
色々と難しいことが書いてあった。
「なになに…、
『乗務員が非常口を開けるまでは
乗客を制止してください』!?
そんな…、パニックの乗客を止めるなんて
俺にできるのか!? 荷が重すぎる…」
いや、ジャンボ機なら
もっと気が楽だったのかもしれない。
まずトラブルはないだろうし。
ただ、悪名高きボンバルディア機、
しかも1人+2人の最弱機だ。
何が起きてもおかしくはない。
離陸前、プロペラがすごい轟音で鳴り始めた瞬間、
自らもシートベルトで身を固定する
キャビンアテンダントのおばちゃんと目が合った。
気のせいか、
僕をじっと見つめながら
「頼みますよ。みんなの運命は
あなたにかかっているんですからね」
と、目でメッセージを送られた気がした。
離陸後、
いつ取れてもおかしくない轟音で回り続けるプロペラ。
「バリッ、バリッ」と
ぎりぎりの線で気圧に耐える窓。
フライト時間は約60分。
仮眠など取れるはずもなく、
僕は自分の安全を、
いや、乗客全員の命を守るため、
マニュアルを持ったまま機体の状況を見守り続けた。
結局、飛行機は無事に空港に着き、
僕も予定どおりホテルに到着したわけだが、
緊張が続いたせいで背中がパンパンに張っている。
今日は飲み会は早めに引き上げて、
ゆっくり風呂に浸かろう。
明日の復路は、電車にするかな…。