No.628~631 東京バス一人旅

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●今日のおはなし No.628●




先週は「おやすむ」が多くてごめんなさい。
今週は、おやすむ中に行った関東旅行のおはなしを中心にお届けします。

■第1章 「26歳の修学旅行」 ■

先週の金曜。
僕は東京へ向かうバスの中にいた。
川崎市に住む姉の息子、優太郎の顔を見るために。

バスは片道7時間。長い。
でもでも片道5000円。往復でも1万円。安い。

とにかく、時間はた~っぷりある。
ぼーっと過ごそうっと。
新聞や雑誌をいつもよりゆっくりと眺めて過ごしていると、
携帯に友人からメールが。



 「東京まで、気をつけて行ってらっしゃい。」



笑。気をつけようがない。バスやからね。

ハンドルだけ僕の座席にあれば話は別だけど…。
運転手さんにメールを転送してやろうかと思ったけど、
色んな意味で危ないからやめた。

車窓の向こうを、穏やかに流れる景色。
山、山、田、田、山、田、田。

株価や業績の高さは知ってたけど、
稲の高さがどのくらいかなんてまるで忘れてた自分。
緑の風景が心にゆっくりとしみていく。

こんなにゆっくりとバスに乗るのは、修学旅行以来かな。
サービスエリアでの休憩が終わるたびに、
「は~い皆さーん、隣の人はちゃんといますか~?」と
呼びかける運転手さんの声が、すっごく懐かしくて笑った。

…ここに一緒に乗っている人は、
みんなわりと時間のある人なんだろな…

そう思ってよくよく車中を見渡すと、
90%以上は「白髪」か「茶髪」の客。
なるほど、みんな時間がありそうだ。

なんだかんだしているうちに、案外早くバスは東京へと入った。
久しぶりに見る東京の街。意外と、大阪よりも緑が多い。

特に、“緑のない東京”のイメージを裏切りたいかのように、
1本の木を無理やり町に残して、めちゃめちゃデカくなっている木が目立つ。
まるで東京が「な! 緑、あるやろ? な!」と主張をしているようだった。

東京駅に到着。



 「フッ、久しぶりの上京だぜ。」



途中、タバコ仲間になったおっちゃんにばいばーいと別れを告げ、
カバンをかついでJR東京駅へと歩く。

目指すは、先輩と飲む待ち合わせをしている「新橋」。
えーっと、切符を買って、改札をくぐってと。
…。あれ…?

ホームへ続く階段が、10番線ぐらいまであるではないか。



 「…どれだ?新橋へ行くにはどれに乗ればいいんだ?」



頭の中がスローモーションで流れているせいか、
周りを行く人の波がやたらと早く見える。

「大丈夫だ俺。お前なら出来るさ。」と自分で自分を励ましながら、
ドキドキで山手線へ。
えーい。たとえ間違っても、死にはしないさ。

と思う間に、2駅でスグに新橋についた。
なーんだ。簡単じゃねーか。

サラリーマンの顔がみんなベンガルみたいだったり、
ゴミを捨てるゴミ箱が全然無かったり、
販売機から新500玉が出る確率がやたら高かったりはしたけど、
基本的には大阪と変わらんな~。

夜は、新橋でサラリーマンに紛れながら飲み、
友達の家に泊まってぐっすり眠った。



 

●今日のおはなし No.629●

 

■第2章 「より道」 ■

東京2日目。

“ゆりかもめ”に乗って数分。
友達に案内され、噂に聞いていた「お台場」に到着。
とにかく広くてどこから行けばいいか分からなかったので、
まずは巨大なゲームパーク「ジョイポリス」へ潜入した。
うわっ、広っ。

沢山のアミューズメントが並ぶ中で、
お気に入りのゲームを発見。たしか名前は「ミステリーウォーク」。

自分の足で聞きこみをしまわり、推理を繰り返しながら、
殺人事件を解決していくというゲームだ。

鼻や口もある立体的な“顔”の形をした画面が
「ジョイポリス」内にいくつも立っていて、
カードを差しこむと人の顔の映像が出現。
事件に関係する色々な人が、表情豊かに情報をくれるんだけど、
画面が立体的なだけに、本当に聞きこみをしてるような錯覚。

個人的には、
ヤク中毒のヒデという登場人物がお気に入りだった。



僕「(マイクに向かって)『ストカー』」



ヒデ「やぁ~アンタかい、あ~また来てくれたんだな~」



僕「当たり前だろ、オレ達は親友じゃねぇか」



ヒデ「そうだよな~ オレ達は親友だもんな~。
    じゃあ、とっておきの情報を教えてやるよ~。
    ヒヒッ、マスターのところに行って『黒ゆり』って聞いてみなよ…」



という具合に、聞きこみは続く。

夢中になってグルグルまわりながら聞きこみを続けているうちに、
1時間以上時間が経っていた。
少し疲れたけれど、
捜査本部の今泉さんに優秀だと誉められた♪

お台場はとにかく広い。
全部まわろうと思ったら1週間はかかりそうだから、
ちょうど「27時間テレビ」のリハが行われていたフジテレビに潜入し、
ハモネプのスタジオで頑張っているアミ-ゴ伊藤を見届けて帰った。

新橋で友達と別れ、いざ姉の住む川崎市へ。

その日は僕がアロハっぽい服を着ていたせいか、
JRの車内で隣の女子中学生に何故か何度も謝られたけど、
数十分揺られて、無事「○○○○駅」に到着。

都会って言えば都会だけど、
わりと静かな住宅街。

駅を出て、ポケットから姉が送ってくれた地図を取り出す。
「この地図で迷ったヤツはいない」というのが姉の伝言だ。

どれどれ、えーと、
この先の“デカいマンション”を左。
…デカいマンションって、どれやねん…。
あ、コレか? デカい? う~んデカいかな。

謎の地図を片手に数分歩く。見えた。あれだ。
ドキドキ…いよいよ、優太郎とご対面の瞬間。



 ピーンポーン



    はーい、ガチャ



中から出てきたのは旦那さん。
その後ろから、大きな泣き声がした。



 

●今日のおはなし No.630●

■第3章 「子の誕生は母の誕生」 ■

「おじゃましまーす」と一言。
家の間取りを見渡す間もなく、僕は奥へと足を進めた。
いた。優太郎だ。

まだ産まれて4ヶ月だっけ。やっぱり小さいな~。



 「よ!君が優太郎くんかぁ。」



ほっぺたをつつきながら初対面のご挨拶。
知らない人がやって来たことが分かるらしく、
優太郎はじーっと僕を見ていた。



 姉「アンタの小さい頃にそっくりやろ?」



    僕「そやな、似てるなぁ~」



そう、何故か優太郎は僕の小さな頃にそっくりなのだ。
初めて抱く、血のつながった赤ん坊。
幼い頃の自分を抱いているようで、変な感じがした。



  んぅ~ んぅ~



グズり出す優太郎。話には聞いていたが、
女の子のような泣き声。

姉の話によると、お昼寝をサボったので機嫌が悪いのだとか。
とその時、姉が優太郎を抱き、母乳をあげはじめた。

子に授乳する姉の姿。なんだろう。美しかった。
姉は母に…。我が家の歴史が変わったことを実感した。

そっか、姉も母だもんな。

姉がサザエさんなら、旦那さんはマスオさんで、
僕はカツオ。優太郎はタラちゃんやもんな。
さっきまで泣きかけていた優太郎は、幸せそうに乳を飲んでいた。

旦那さんが優太郎をお風呂に入れた後、
「優太郎くんは、これがお気に入りやねんな~」と
湯上がりの肌にベビーオイルを塗る姉。
キャッキャッと嬉しそうに笑う優太郎。

「でも、これは嫌いやねんな~」と、綿棒で鼻の中を掃除する姉。
溺れそうな顔をして抵抗する優太郎の顔がオモシロかった。

優太郎のテンションが少し落ち着いたのを見計らって、姉は風呂へ。
僕と旦那さんで、しばしボーッと優太郎のやることを眺めていた。

優太郎は、最近覚えた寝返りがお気に入り。
仰向けに寝かせても、「んぅ~ んぅ~」と
言いながらスグにうつ伏せになろうとする。

うつ伏せになったら、今度はじっとしているのに退屈しだす。
優太郎はまだ4ヶ月。動きまわろうにも“はいはい”も出来ない。

「どうするのかなぁ?」とじーっと見ていると、
まるで亀がストレッチをしているように両手両足を精一杯伸ばし、
「ふっ、ぅぅぅん ふっ、ぅぅぅん」と一生懸命“空”を飛ぼうとするのだ。

これにはやられた。カワイすぎる。

空を飛べないことが分かると、またグズり出す優太郎。
あ、泣く。どうしよ。姉は入浴中。

とりあえず、ほっぺをくすぐって遊んであげると、
優太郎は僕の親指を口の奥に入れてしゃぶりはじめた。

歯がないから痛くなかったけれど、
とにかく夢中になってどんどん吸われる。
これが乳をあげる母親の感覚か…。

しばらくすると、またグズりだす優太郎。
お昼寝してないからなぁ。
と、ちょうどイイ時に姉が風呂からあがってきた。

姉が、いや、母が帰ってくると、
一気にゴキゲンが良くなる優太郎。苦笑いの旦那さん。
笑顔になった優太郎を胸に抱きながら、姉が自慢げにこう言った。



 「これがね、痛い思いをして産んだ特権よ♪」



Yes!と言わんばかりに、優太郎が笑った。



 

●今日のおはなし No.631●

■終章 「て」 ■

朝。
母乳を飲む優太郎の笑い声で目が覚めた。
どうやらご機嫌のようだ。

“朝食”の済んだ優太郎をふとんの上で遊ばせて、
姉と旦那さんと僕は、テーブルで朝食を食べる。

トーストを口に放り込みながら、チラチラふとんの方を見てみると、
目が合うたびに嬉しそうに笑って、恥ずかしそうに顔を隠す優太郎。
何が楽しいのかは分からないけど、とにかく20分ほどずっと笑ってた。

朝食後、大阪へ帰る10:00発のバスに乗るために、
ふとんの横で荷づくりを始める僕。

ん? 腕が涼しい…。正確に言うと、腕だけが冷たい…。
よく見ると、いつのまにか左腕が優太郎に吸われていた。



 「なぁ、オレっておいしいんかぁ?」



と、天井近くまで抱きあげてやると、
今までで一番嬉しそうな顔でキャッキャッと笑った。
そっかオマエ、空飛びたがってたもんな。



 「ふぅ、帰るか。じゃあな。」



さよならを告げて、カバンを背負って駅へと歩く。
別れ際まで優太郎が手を離さなかったせいか、
姉の家を後にするのが少し淋しかった。

東京駅に向かう電車の中。
景色がすべてドラマのワンシーンのように止まって見える。
あれ?この感じ…。

バスを待つ東京駅で、僕は“メモ帳”を買った。
久しく忘れていた感覚だけど、
言葉があふれてきてこぼれそうだったから。

帰りのバスの中で、胸にあふれる言葉を夢中になって書きとめた。
もちろん、優太郎がくれた言葉も。

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    「 て 」


  小さな 小さな て

  汗ばんだ僕の人さし指を

  ぎゅっと握って放さない 小さな て

  その一途な力を感じるたびに

  どこへも行っちゃ ダメな気がするんだ

  この世に自分がいることの意味

  もっと強く もっとぎゅっと握ってごらん

  そうしたら僕は もっと強いパパになれる


  まっ白な まっ白な て

  日に焼けた僕の人さし指を

  何度もたしかめるように握る まっ白な て

  その肌には きっと まだ触れたことのないモノが

  たくさんたくさんあるんだね

  どうだい パパの 手 もカッコいいだろ

  色んなモノや 色んな人に触れておいで

  そしていつの日にか パパと握手ができますように

  大きくなろう な

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言葉を選ばず、あふれだすままに書きとめる。
すると真っ白なメモ帳は、不思議と色づいていった。

優太郎に会って、
なぜ忘れていたものを思い出したのかは分からない。

ただ、事実は一つ。
今回の旅で、僕はまた少しだけ大きくなった。