No.2205 人々が奏でるリズムの中で
朝、8時半頃。
その女性は、いつものように
駅のホームに立っている。
僕が乗っている電車の
扉が開く真ん前で。
僕が電車を降り、
人混みの中ですれ違う時、
彼女はいつも遠くを見ている。
何を想うのかは分からない。
数秒後、背中から
電車の発車した音が聞こえる。
彼女がどこの駅で降りて、
何をしているのかは、わからない。
正午ちょうど。
その男性は、いつものように
カバンを持ってやって来る。
僕の会社の前にある、
にぎやかな公園に。
カバンからi-Podを取り出し、
イヤフォンを耳につけた瞬間、
彼はいつも人目を気にせず大きな声で歌い出す。
何を歌っているのかはわからない。
数分後、再び様子を見ても
彼はずっと楽しそうに歌い続けている。
彼がどこからやって来て、
なぜ歌っているのかは、わからない。
毎晩遅く。
その少女は、いつものように
しゃがみこんで携帯でメールを打っている。
僕が帰る道にある、
TUTAYAの灯りのそばで。
僕が前を通り過ぎる時、
彼女はいつも難しい顔で
メールの文章を考えている。
誰に書いているのかはわからない。
数秒後、振り返ると
彼女は膝を抱えて返信を待っている。
彼女がどこに住んでいて、
なぜ毎晩家に帰らないのかは、わからない。
知らない人がいて、生きていて、
僕もそのリズムの中で生きている。
僕も、知らない誰かの
リズムの一部になっているのだろうか?
今日もいつものように、
おはなしを送る。