No.1379 出産前日の朝

朝、目覚まし時計が鳴る前に
何かの気配がして目が覚めた。

うっすらと目を開けると、
ベッドのそばにある鏡台のイスに嫁が座っていて、ひとこと。
「始まったかもしれへん」

なんでも、僕がグースカ寝ている間に、
おなかが張る周期が早くなってきたらしく、
いわゆる「おしるし」もあったようで。

「そうか!そうなのか!」と慌てて顔を洗い、
ドキドキしながら服を着てから
数分後にダイニングルームに行くと、
嫁は落ち着いた顔をして朝食のパンとヨーグルトを食っていた。

 「腹が減っては、戦はできないからね」

と、嫁。

うーん、なんなんだこの度胸は。女ってすごい。
男の僕は、こんなに慌てているというのに。

ふと横を見ると、ちゃっかり「入院準備グッズ」が
カバンに詰められて置いてあったので、
僕も急いで「立ち会い準備グッズ」を準備することに。

   えーと、デジカメにビデオカメラに、
   ボール? 気を落ち着かせるために携帯灰皿もいるか。
   あとは…、i-Pod? そんな余裕あるんか…?

と、自問自答しながら準備をしていると、
隣で嫁が笑ってこう言った。

 「とりあえずまだ大丈夫やから、会社行き」

 

   「大丈夫って、オマエ、」

 「まだ我慢できるレベルやから。
  なんかあったらすぐ連絡するし」

「我慢できる」って言われても、
やたらと根性の強い嫁の言葉は信用できない。
放っておいたら、腹が破裂するまで辛抱しそうで。

その後、数分やりとりをした後、
後ろ髪を15mぐらい引かれながら
嫁を残して家を出た。

ということで、今は会社にいるんだけど、
時折嫁から携帯メールに入る
「今洗濯物干してる」「布団も干そう」という速報を見るたびに、
落ち着かずにドキドキしている。

今日、この後の展開、どうなるんだろう?
その答えは、神と息子だけが知っている。
いや、なんとなく、嫁も知ってる気がする。