No.2531 「ドックン」をもう一度

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時間にすれば一瞬だけど、
一生忘れられない感覚がある。

久しぶりにこんな話もいいだろう。
甘くせつない、青春時代の話。


高校の頃、付き合っていた彼女と
初めて神戸までデートに出かけた。

当時は車が運転できるわけもないし、
自転車で行ける距離でもないから、
JRの駅で待ち合わせて。


僕は僕で、前の晩から
「何を着ていこう?」と考えて、
慣れないジャケットを羽織ったり、
精一杯のおしゃれをして出かけた。

彼女は彼女で、
普段のセーラー服よりも目映い
ワンピースを着てやってきた。


JRで神戸に向かう快速電車の中。
行楽シーズンだったこともあり、
車両は多くの家族連れで混雑していた。



  「今日、人多いな」



      「そうやね」



付き合い初めて2カ月。
まだ一緒にいるだけでドキドキしてしまうような
時期だったから、会話もちょっと上の空で。

人の多さをネタにしながら、
なんとかその場を和ませるのが精一杯だった。


明石を過ぎたぐらいで、
またたくさん人が乗ってきて。

僕たちの周りにあったわずかなスペースは
さらに狭くなった。
ジャケットとワンピースが触れあうぐらいまで。

あまりの近さに、
胸のドキドキが「ドックン、ドックン」と高鳴り、
心臓はもう破裂状態。

二人とも、
話すことよりも照れを隠すのに必死で
電車を降りるまで無言だった。


あれから20年、大人になって
満員電車に乗ることも増えたけど、
近くに若い女性が来ようが
あの「ドックン」という感覚はわいてこない。

何かに慣れたのか、何かが鈍ったのか。

少し寂しい気もするけれど、
たぶん、今もう一度あの人と会えたなら、
また無言のまま「ドックン」しそうな気がする。