No.1258&1266&1318 「パパ」になろう 〜出産までのはじめて体験〜
●今日のおはなし No.1258●
去年の11月11日。
くしくも友人に「誕生日おめでとう」メールを送り、
「アイツを産んだお母さんに感謝だなぁ」なんて
思いながら帰宅した時のことだった。
「ただいまー」
「おめでとうございます」
「え?」
「パパやで」
産婦人科で撮ってきたエコー写真を
照れくさそうに見せる嫁。
こうして、我が家で新しい生活が始まった。
噂には聞いていたけど、
妊婦というのは気まぐれなもので、
食べたいものが日ごとに変わる。
朝に「あっさりした漬け物が食べたい」と言ってたかと思うと、
午後には「こってりソースのお好み焼きが食べたい」といい、
夜には「ジンジャーエールが飲みたい」というので、
部屋着のまま自動販売機までパシったり。
出産の主役はやっぱり女性で、
男にできることは限られているからこそ、
できることはなるべくやろうとがんばる毎日。
正直、自分の体に変化がないので、
子どもができるということをまだ実感していないけど、
夫婦で支え合うウェイトは明らかに変わった。
ある意味で、今って貴重な時間なんだろうな。
今は4カ月目。
この間、エコー写真を見せてもらったら、
最初は細胞の点ぐらいしか見えなかった物体に、
頭と手足ができていた。
これにはちょっと感動。
おなかの中に、人間が入ってるんだなー。
女ってすげぇ。
もうしばらく経つと、男か女かもわかるらしい。
エコー検査ってのはなかなかやりよるなー。
そんな話をしていた時、嫁が突然笑い出した。
「? なんやねん?」
「(笑)いや、エコー写真で
赤ちゃんのアゴが出てきたらオモロイなと思って」
思わずムスッとする僕。
ますます大笑いする嫁。
ま、でも、たしかにそうか。
子どもの輪郭が僕に似てくるのはイヤやなぁ。
そんなこんなで、
わりと楽しく過ごしている毎日。
子どもが産まれるまでの半年間、
残された二人だけの時間を楽しもうと思う。
●今日のおはなし No.1266●
土曜日、生まれて初めて
産婦人科という所に行ってきた。
別に僕は行かなくても良かったんだけど、
こんなことでもないとなかなか潜入できないと思ったので。
sunny-yellow会員の皆さんのために、
産婦人科がどういうものかをレポートする使命(?)もあるし。
行く前までは、おなかの大きな妊婦さんが
たくさん待合室に座っていて、
「おたく何ヶ月目?」「うちは4カ月目ですのよ。ホホホ」という
会話が繰り広げられているイメージだったんだけど、
いざ行ってみるとちょっと違った。
土曜日ということもあったんだろうけど、
待合室にいる人の半分ぐらいは、旦那らしき男の人で、
カーペットの上には小さな子どもたちが走り回っていた。
もっと意外だったのは、
産婦人科に来ている夫婦の年齢層。
ひとことで言うと「若い」。
中には、「あなた、つい最近までギャルってました?」という妊婦や、
「ホントに家族養えるの?」という予備校生のような旦那もいたり、
子どものいる夫婦というイメージが一瞬にして吹き飛んだ。
少しあ然としながら待合室に座っていると、
診察室から大きな女性の声が。
「Hさぁーん、Hさんの旦那さぁーん!」
中にはいると、女の先生が
嫁の腹にエコーを当てる準備をしていた。
「はい、じゃあ今から一緒に見ていきましょうね」
画面に映る小さな物体。
わ、足や! 顔や! 心臓や!
おなかの中の子どもが動いているのを見たのは初めてで、
言い表しようのない感動がこみあげてきた。
まるで、畳の上に肘をついて昼寝をしているオヤジのように、
頭を腕でつつみ、足をもぞもぞさせながら眠っている。
「元気に動いていらっしゃいますね」
その小さな物体に対して、先生が敬語を使っているのを聞いて、
ようやくおなかの中に「人間」がいることを実感した。
「はい、じゃあ次は心臓の音を聞いてみましょう」
え? そんなものも聞けるの?
大人ならともかく、こんな小さな心臓の音が?
興味津々で耳を澄ます。すると…、
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ…
ものすごいリズムでビートを刻む心音。
「嫁の心臓があって、腹があって、その中に子どもがいて、
その子どもの中に心臓があって、動いてる!?」
一瞬、男の僕はパニックになりそうだった。
「勢いよく打ってますね。順調です」
先生に笑顔で見送られ、待合室に戻る僕。
(そこから後の診察は男子禁制だったので)
待合室の床ではしゃいでいる1ー2歳の子どもたちが
なんだかスゴイ生物に見えた。
「オマエら、腹の中で生きてきたんやなぁ」
病院を出たあと、なんとなく
子ども用品店の「西松屋」に寄ってみた。
なぜ寄ったかはわからないけど、たぶん、
産まれる前から子どもが生きていることを知ったからだろう。
父としての自覚ってやつかな。
しばらく店内をまわり、ベビー用品にどんなアイテムがあるのか、
しっかりと勉強した。
夜は、久しぶりに僕が料理をした。
材料は2人分だけど、気持ちは3人分。
「おおきくなれよー」、そう胸の中でつぶやきながら
鍋の中のスープをぐるぐるかき混ぜるのであった。
●今日のおはなし No.1318●
土曜日、産婦人科の「両親教室」なるものに行ってきた。
そういうものがあるというのは
子どもがいるツレから聞いて知ってたんだけど、
もちろん、参加するのははじめて。
産婦人科に着くと、日当たりのいいこぎれいな一室に
おなかの大きな妊婦と旦那がワンセットで、計8セットぐらいいた。
全然関係ない話かもしれないけど、
夫婦ってのは似るものなのか、似た相手を選ぶものなのか、
茶髪の奥さんの旦那はやっぱり茶髪で、
ほのぼのした感じの奥さんの旦那はやっぱり穏やかだった。
(子どももそうなるのかな)
部屋に入ってしばらく経つと、
松金よね子のような助産婦が入ってきて、講習開始。
僕もそうだったんだけど、配られたテキストを握りしめながら、
「陣痛が10分感覚になったらお産の準備ですよぉ」という話を
旦那さんがみんな一生懸命話を聞いているのが面白かった。
1時間ほどの座学講習が終わり、いったん途中休憩。
ご丁寧に、参加者には
「鉄分たっぷりフルーツドリンク」なるものが配られたので、
あまりおいしくなかったけど飲み干した。
今思えば、
これが後々の悪夢につながるんだけど。
後半の講習は、「赤ちゃんの沐浴(もくよく)の方法」について。
いつの間にか用意されていたベビーバスと、赤ちゃん人形を使って、
助産婦さんの実演が始まった。
えーと、なになに?
顔をSの字に拭いてから、親指と中指で首を支えて湯にいれて、
洗っては流して、流しては洗って、
今度は体をひっくりかえす!?
うーん、むずかしい。
実演のあと、お父さん予備軍による実習があったんだけど、
みんなそれぞれに苦戦していた。
もちろん、僕も。
「Hさん、赤ちゃんのこめかみに泡がついたままですよ。
しっかり流してあげてくださいね」
「ああ、スミマセン。自分の頭を洗うときも
いつもそんな感じでテキトーなんで」
そうやって、助産婦さんから
少しの笑いをとるのが精一杯だった。
と、その時、
具体的には赤ちゃん人形の足を洗おうとしていた時に、
突然、僕の腹部に激痛が…。
さ…、さっきの鉄分ドリンクのせいに違いない。
あまりの痛さに気が遠くなりかけた僕は、
赤ちゃんの顔が湯船につかって溺死寸前なのにも気づかず、
足だけを何度も何度も洗っていた。
「Hさん? どうされたんですか?
もう足はいいですよ」
「…すみません、僕の陣痛が始まったようで…」
その後、なんとか講習終了までは耐えたけど、
トイレにかけこんだ時は死ぬかと思った。
ああ、ホントの陣痛ってこんなモンじゃないのね。
いろんな意味で、女性の大変さを実感できた1日でしたわ。