No.2686 騙し愛

夜の電車。

仕事帰り風の男女が、
扉の前で寄り添っていた。

それぞれ薬指に指輪をしていたけれど、
夫婦でないことは直感的にわかった。

男の駅が近づいてきたのか、
名残惜しそうに袖を引っ張る女。
その手を包むように、優しく握る男。

自分の大切な人に嘘をつくのか、
自分の気持ちに嘘をつくのか。
迷ったあげく二人は後者を選び、
男は次の駅でその手を放して下り去った。

愛し合っているのに、
別々の場所に帰る二人。

その気持ちは、過ちかい?

「出逢いが遅かったから」とあきらめて、
自分を騙し続けるのかい?

電車が揺れる中、
遠くを見つめる女の横顔を見ながら、
「がんばれよ」とエールを送った。