No.519  1万5000円は何に消えた?


喫茶店のカウンターに座って待っていた友人は、
1枚の振込用紙を手に、ため息をついていた。

背後からこっそり額を見てみると、
振込額は1万5000円。もう振込が終わっている。

友人は、その紙を何度も見ながら、
コーヒーにも手をつけずに、ただずんでいた。



 「お待たせ!その振込、何の振込なん?」



挨拶がわりに背中をたたく僕。



   「え、いや、別にエエやん」



僕に何かを隠そうとする友人。
気になる。気になりまくる。

1万5000円で買える、
人に知られたくないモノってなんだ?
健康マシーンか? 今どき杜仲茶か?
それとも人には言えないドラッグか…?

紅茶を注文しながら、
友人の性格から私生活を推測する。

1万5000円、1万5000円…。
普段は別に何ともないその数字が、
にわかにミステリアスな空気を醸しだしてくる。

まさかコイツ、
やばいことに手を出してるんじゃ…。

そういや昔、悪いことはたいていコイツに教わった。
あれから大人になったワケだから、
やることもスケールアップしててもおかしくない。

落ち着きもなく、店に置いてあった
普段読まない「東洋経済」なんかを
挙動不審にも読もうとする友人。

勇気をふり絞って、僕は問いかけた。



 「オマエ、なんかヤバイこと隠してるやろ?」



数秒後



   「なんで分かったん…。実はそうやねん…」



やっぱり…。恐る恐る問いかける。



 「何してん、オマエ」



緊張の一瞬。友人が口を開く。



   「実はな、さっき携帯電話代振り込んで、
    一銭もなくなったのに気付かずに、
    ここで一番高いコーヒーを注文してしまってん…」



 「…、は? それだけ?」



   「どうしよう?」



 「え、イヤ、貸したるよ、お金。」



   「マジでぇ?良かった~!」



急に笑顔になって、
コーヒーを飲みだす友人。

なるほど、そうだった。

僕の友人に無邪気なヤツはいても、
悪いヤツはいなかった。