喫茶店のカウンターに座って待っていた友人は、
1枚の振込用紙を手に、ため息をついていた。
背後からこっそり額を見てみると、
振込額は1万5000円。もう振込が終わっている。
友人は、その紙を何度も見ながら、
コーヒーにも手をつけずに、ただずんでいた。
「お待たせ!その振込、何の振込なん?」
挨拶がわりに背中をたたく僕。
「え、いや、別にエエやん」
僕に何かを隠そうとする友人。
気になる。気になりまくる。
1万5000円で買える、
人に知られたくないモノってなんだ?
健康マシーンか? 今どき杜仲茶か?
それとも人には言えないドラッグか…?
紅茶を注文しながら、
友人の性格から私生活を推測する。
1万5000円、1万5000円…。
普段は別に何ともないその数字が、
にわかにミステリアスな空気を醸しだしてくる。
まさかコイツ、
やばいことに手を出してるんじゃ…。
そういや昔、悪いことはたいていコイツに教わった。
あれから大人になったワケだから、
やることもスケールアップしててもおかしくない。
落ち着きもなく、店に置いてあった
普段読まない「東洋経済」なんかを
挙動不審にも読もうとする友人。
勇気をふり絞って、僕は問いかけた。
「オマエ、なんかヤバイこと隠してるやろ?」
数秒後
「なんで分かったん…。実はそうやねん…」
やっぱり…。恐る恐る問いかける。
「何してん、オマエ」
緊張の一瞬。友人が口を開く。
「実はな、さっき携帯電話代振り込んで、
一銭もなくなったのに気付かずに、
ここで一番高いコーヒーを注文してしまってん…」
「…、は? それだけ?」
「どうしよう?」
「え、イヤ、貸したるよ、お金。」
「マジでぇ?良かった~!」
急に笑顔になって、
コーヒーを飲みだす友人。
なるほど、そうだった。
僕の友人に無邪気なヤツはいても、
悪いヤツはいなかった。