No.2033 生きるために舟を漕ぐ
水平線しか見えない
広い広い海の上で
僕はただ
波に揺られながら
どこに行くわけでもなく
沈まないように
舟を漕いでいる
その退屈な姿は
まるで居眠りをしているかのように
滑稽だろうけど
誰かの笑い声を消し去るように
向こうから波音が迫ってきて
見えない重力に逆らうために
沈まないように
僕はまた舟を漕ぐ
長い間
潮風と陽射しにさらされたその手は
もう
どこもかしこもマメだらけだ
今さらあの頃のようには戻れないけれど
どこかの偉人が言ってたよ
まだ知らない世界も
海の彼方にあるんだって
前に進もうが
後ろに進もうが
詩を詠もうが
弦を奏でようが
誰にも何も
言われやしないくせに
この舟を沈ませたくないのは
なぜなのかな
雲が晴れ
太陽が顔を出したと思ったら
突然また
雨が落ちて海が荒れる
わからないね
空の機嫌も 何もかも
この海に果てがあるのか
ただ水平線が続くのか
明日のことはわからない
漕ぐ手をとめない理由は
きっとそこにあるんだろう
この舟は
たいして格好良くもないけれど
一緒に乗ってくれる人がいたら
なんとなく楽しそうだな