No.2274&2275 息子の初恋

●今日のおはなし No.2274●

嫁が息子の異変に気づいたのは、
先週の金曜日のことだった。

「なんか、○うたの様子がおかしいねんけど」

「ん? 風邪でも引いたんかいな?」

「いや、そうじゃなくて。
テレビの女の子見て、ニヤけてるねん」

「はぁ?」

まさか、4歳にして
早くも異性への興味を示すとは。

いや、でも、僕も幼稚園の頃、
かわいい子を見つけては言い寄ってたな。
遺伝を考えればおかしくない。

とはいえ、まずは本人に確認してみなければ…。

土曜日。
朝起きてから
早速息子にヒアリングをかけてみることにした。

「なぁ、○うた、テレビのお姉ちゃん、好きなんか?」

「えっ? もぅー、やめて〜(笑)」

急に照れ笑いをしてはしゃぎ始める息子。
怪しい…。怪しすぎる。

なんだ、この、見たことのないぐらい
鼻の下を伸ばしたリアクションは。

「なぁ、お父さんにだけ教えてーや」

「あかーん。○うただけやねん」

「○うただけ? 何がよ? 」

「○うたの夢の中だけやねん」

こっ、コイツ…。
夢で妄想するとは…、かなりマジやないか。
どうりで最近、早く布団に入りたがると思った。
時折寝言で「ふふっ」と笑っているのも、
きっとお姉ちゃんと一緒にいる夢を見ていたのだ。

幼児だと思っていた我が息子が
異性への興味を示しているという事実を確認した瞬間、
親としては軽いショックを受けた。

しかし、これもいつかは通る道。
父親として、初恋の相手を調査してみることにした。

時間を置いて、その日の夜。

息子をお風呂に呼び出した。
男同士、裸の付き合いで話そうと思い、
湯船の中で尋問を続けた。

「なぁ、○うたよ〜」

「んー?」

「お姉ちゃんの話やけどさー、」

「もぅ、やーめーて〜(笑)」

「恥ずかしがるなや。
人を好きになるってことは、素敵なことやねんぞ。
で、名前はなんて言うん?」

「だーめー(笑)」

「わかった、わかった。じゃあ、
お姉ちゃんが出てる番組の名前だけ教えてよ」

「えー」

「言わへんから」

「まっく…」

「マック?」

「てんさいテレビくんまっくす」

説明しよう。
「天才てれび君MAX」とは、
平日の18時頃からNHK教育テレビで流れている番組のこと。
http://www9.nhk.or.jp/tvkun/

小学生をターゲットにした番組なので、
出演している子供たちはみんな
小学生高学年〜中学生の子どもたち。

僕も一度見たことがあるけど、
おそらく将来は有名になるであろう
かわいいアイドル予備軍の女の子がたくさん出演している番組だ。
と、いうことは…である。

「息子の初恋の相手は、年上かぁ…」

その夜、息子を寝かしつけた後、
調査の途中経過を報告したら、嫁は笑っていた。

「なるほどね。たしかに、あの子、
やさしいお姉ちゃんが好きみたいやわ」

「まぁ、最近の小学生はかわいいからな。
とりあえず、面白そうやから
時間をかけて相手がどの子か調査してみるわ」

寝室に行くと、
息子が幸せそうな顔で眠っていた。
その夢の中で、一体誰と遊んでいるのか。
うーん、気になる。

父は調査を継続することにした。

(明日につづく)

 

●今日のおはなし No.2275●

(昨日のつづき)

天才テレビ君MAX。

息子のお気に入りのお姉ちゃんが
出演している番組は分かった。
しかし、肝心の名前がわからない。

気になるので、
翌朝から再び事情聴取を続けた。
彼の好きなリンゴジュースで心をほぐしながら。

「○うたよ、まぁ、一杯飲め」

「おいしー」

「そやろー。それでやな、」

「だーかーらー、やーめーてー(笑)
12がつになったら、おしえてあげる♪」

「そんなこと言わんとさぁ、」

「だーかーら〜(笑)」

年が明けたばかりなのに
年末まで内緒か。うーん、待てん。

こうなったら仕方ない。
できれば使いたくなかったが、
“大人の手段”を使うか。

しばらく時間を空けてから、
おもちゃで遊んでいる息子に何気なく話しかけた。

「○うた、いつも一緒に遊んでるあの子、
名前なんて言うんやったっけ?」

「ん? しゅうと君?」

「あー、そうかそうか、しゅうと君やったな。
そうそう、○うたの好きなお姉ちゃんは名前何やったっけ?」

「ん? ナナちゃん?」

そうか! ナナちゃんというのかぁ〜!
見事に誘導尋問で名前をゲットした僕は、
その夜、息子と一緒に「天才テレビ君MAX」を鑑賞することにした。

「おい、ナナちゃんってどの子よ?」

「だーかーら〜(笑)」

「今真ん中に映ってる子やで」

嫁のアドバイスをもとに探してみると…、いた。
噂のナナちゃんが。

知的な美人という感じの女の子で、
将来大物になりそうな雰囲気も漂っている。
へぇー、なかなか趣味がいいじゃないか。

「○うた、ナナちゃん、かわいいやん」

「やーめーて〜(笑)」

「照れるなや。この子ならお父さんは歓迎するぞ」

と、言ってみて気づいたけれど、
この先どうしてやればいいのだろう。

恋の相手はテレビの中のアイドル。
こっちは、どこにでもある家庭に産まれた男の子。
住む世界が違いすぎるし、
よく考えれば会うことすら難しいではないか…。

失恋するとわかっている初恋を、見守るしかないのか…。
ニヤニヤしながらテレビ画面を見つめる息子を見て、
少しかわいそうになった。

その夜。
息子が眠った後、嫁と相談した。

「なぁ、どうしてやったらいいんやろな?」

「別に、何もせんでもエエんとちゃう」

「だって、かわいそうやんけ。
せめて、会える方法とかあればいいねんけどな」

「あるよ。“コンサート”に行けばいいねん。
テレビ君MAXに出てる子たち、みんな歌ってるから」

「そうか! その手があったか!」

「おかあさんといっしょ」のファミリーコンサートに
行っている場合ではない。
小学生アイドルのナナちゃんを追いかけて、
息子をコンサートに連れていってやらねば。

それから嫁と話した結果、

「1…ナナちゃんが出演するコンサートを探そう」
「2…息子にAKB48とか見せたらエラいことに
なりそうやから気をつけよう」

という2点が決まった。

はたして、この初恋の行方は?
sunny-yellowグループでは、
今後この恋を密着取材していきます。