No.285 真夏のミステリー「エレベーター」
『エレベ-タ-』
ひどく薄暗いビルでの出来事だった。
ある男が急いでエレベ-タ-にかけこんだ。
「7F、7Fっと…」
ボタンを探そうとしたその瞬間、男は仰天した。
「7Fが…ない」
そう、
幽霊屋敷のようなそのビルのエレベ-タ-には、
「3」「7」「11」の書いたボタンだけが無かったのである。
「どうしよう、これじゃ7Fに行けない」
焦った男はエレベ-タ-を出て、非常階段を探しはじめた。
ところが、階段らしきものはどこにも見当たらない。
背後から声がした。
「このビルには…、階段なんてものはないよ」
振り返るとそこには、モップを片手にした管理人らしき老人が。
男は迷った。
「どうしよう…。7Fに行かなくちゃ、7F、7Fに…。
7F? そうか!ここは7Fじゃないか!」
男はその時初めて、自分が今7Fにいることに気づいた。
「な~んだ、バカバカしい。一瞬焦ったじゃないか」
安堵の表情を浮かべ、改めて7Fのフロアに立った男。
今思えば、悪夢の始まりはこの瞬間からだった。
「待てよ…、
エレベ-タ-のボタンがない、階段はない、
それなのに、何故今オレは7Fにいるんだ?
…よく考えればオレは、7Fに何をしにきたんだ?」
振り返ると、さっきの老人はもういなくなっていた。
出口のないフロアに、男の叫び声がこだました。