No.1397 愉快な誘拐犯

夜の駐車場。

男児に強引に白い液体を飲ませた後、
男は共犯の女に何度も確認していた。

 「…眠ったか? 眠ったな?」

車のシートにぐったりと倒れ込む男児。
それを見て、男はすかさず男児をベルトで縛り上げ、
息を切らしながらアクセルを踏んだ。

意識を失ったまま、
見知らぬ場所へ連れ去られていく男児。
そんな彼をよそ目に、作戦の成功を確信して
車中で高らかに笑う男と女。

やがて女はカバンから携帯電話を取り出し、
唾液をたらした男児の顔を眺めながら、こう話し始めた。

   「もしもし、私。
    連れ出せたわ。1時間後にそっちに着く」

男はバックミラーでその様子を見ながら、
またアクセルを踏んでスピードを上げた…。

さてと、そろそろいつものトーンで書こうっと。
上の話は、昨晩、嫁の実家(奈良)まで
嫁と息子を車で送った時の話である。

ミルクをたらふく飲ませ、ぐでんぐでんにしてから、
ベビーシートに寝かしてダッシュで連れ去る。
数日前からシミュレーションした作戦のおかげで、
車中、息子はいびきをかくほど熟睡だった。

産まれてから1カ月間、
検診で数百m先の産院までおでかけした以外は、
自宅をまったく出たことのない箱入り息子。

大阪市どころか、大阪府を出て奈良県に行くなんて、
彼にとっては人生初の大冒険だっただろう。

目を覚ましたら奈良の家で、
息子は「なんかいつもと違うなぁ」という顔で
きょろきょろしていた。

大阪から奈良という微妙な変化ではあるけれど、
彼の中の世界が少しでも広がったらうれしい。