No.4921 ラリックス

間違えるよりも、正しい方がいい。
 
僕らのマインドには、
なんとなく無意識的にそう刷り込まれている。
 
間違えることは
正しいことをめざした結果のミスだけで、
自ら間違えの方を選択することはあまりない。
 
でも、僕はそんな自分を戒めるように
あえて間違いの方を選択することがある。
バックボーンにあるのは、中学の野球部の時の経験だ。
 
野球部時代、選手はやたらと声を出すことを求められた。
守備の時はもちろん、
誰かがバッターボックスに入っている時も。
 
「さぁ、いったれ~!」という感じで
バッターを励ますことが
日本流のチームプレーだったわけだ。
 
人間、打とうとすると、ついつい力んでしまう。
だから「力抜いていこーぜー!」などと
声をかけることが多かったんだけど、
自分がバッターの時にそう言われると
逆に力が入った。
 
「あ、俺、力が入ってるんや…。抜かなきゃ…」と
余計に力んでしまっていたんだろう。
 
他の選手も同じで、
「力抜いていこーぜー!」は
ある意味悪魔の言葉だった。
 
いつの頃だったか、
部員を3チームに分けて練習試合をした時、
対外試合ではないからムードも緩く、
いつもとは違う雰囲気だった。
その時、誰かがバッターにこう言ったのだ。
 
 
 
 「バッター、“ラリックス”やで~!」
 
 
 
語源はもちろん「リラックス」。
間違いであることは明白だった。
でも、その瞬間、バッターの緊張がほぐれた。
 
 
 
   「おい! オマエら笑かすなや!」
 
 
 
その直後、
そいつはツーベースヒットを打った。
普段はあまり打球が外野に飛ばないタイプだったのに、
芯でとらえた打球が左中間を破った。
 
それから、その試合はラリックスが大流行で、
僕たちのチームはのびのびとプレーし、大勝した。
 
 
あの時、僕の中で何かが変わったんだよな。
「あえて間違うことが正しいこともあるんだ」って。
 
菅田将暉・米津玄師の曲に
「まちがいさがし」があるけれど、
あれも本当によくわかるよ。
 
正しい方を選んでばかりじゃ、
歩けなかった道がある。
 
だから、もっとみんな
肩の力を抜いていいんじゃないかな。
うまく行かなくても、間違っていても、
そっちの方が幸せになることもあるんだから。
 
「間違っていいんだ」と思うと、
わりと力が抜けて、いい結果が出るよ。
 
さぁ、ラリックス、ラリックス。