No.856 結婚 〜挙式前夜〜

式の前日、親父から携帯に電話があった。

 「親戚が泊まっているホテルに18時に来い」

身代金の受け渡しやないんやから、と思いつつ、
電車を乗り継いでホテルに向かう。

ホテルに着くと、着慣れない洋服を着た
オカンがロビーに座っていた。

   「おっちゃんとおばちゃんと一緒に夕飯食べるからおいで」

ホテルの1Fにある豪華な和食料理屋に連れていかれ、
久しぶりに会う親戚、両親と一緒に食事をとる。

ビールをあおりながら親父が口を開く。

 「ええかS史、よー聞け。
  アホと貧乏は3代続くんや。
  そやから、オマエの子どもぐらいから上昇気流やな」

なんのことやら。
まぁ、でも、親父は親父なりに
何かを伝えようとしているんだろう。

 「ワシはまだまだ営業するぞ。
  ピストルと麻薬以外は何でも売る。何でもや。」

およそ祝福の言葉とはほど遠い言葉だったが、
それはそれで思い出に残った。

自宅に戻る車の中、
中央環状線を走りながら、
僕は明日の挙式のことを考えていた。

明日は自分らしくいこう。
親の前でも、いつもの自分でいこう。
そしてあの親父を、絶対に泣かせてやる。

そんなことを思い始めてから、
色んな企みが頭に浮かびだして、
夜は全然眠れなかった。