No.4177 7年目の美容室

日曜日、
サッカーの試合がない日だったので
いつも通っている美容室へ行った。

今の家に引っ越してきた時から、
思えばかれこれ7年ほど通っている店。
女性の美容師さんもずっと同じ人で、
さすがにお互いに顔なじみの仲だ。

その人は僕の家族構成や仕事、出身地を知っているし、
逆に僕も、彼女が山口県出身であることや
市の駅前に住んでいることまで詳しく知っている。
でも、数カ月に一度しか会うことはない。
そんな微妙な距離感が、毎回なんとも心地いい。

久しぶりに店に顔を出すと、
だいたいブランクだった数カ月分の話をする。

「忙しかった」「旅行に行った」
「サッカーばかりだった」「また焼けた」などなど、
お互いの情報をアップデートするのに
それほど時間はかからない。

髪を切りながら10分ほど話したら、
近況以外のたわいもない話題になる。
日曜日は「年齢について」だった。
 
 
 
 「なんだか最近、遠出しようと思わなくなって」
 
 
 
鏡越しに彼女が恥ずかしそうにそう言った時、
7年という時の流れを感じた。

僕が初めてお世話になった時、
彼女はまだ20代後半で、
「平日は忙しいけど休日は遊びます!」という感じの
エネルギッシュな人だった。

僕は、そんな彼女の話を聞いて、
毎回元気をもらっていた。
美容師の知り合いってあまりいないから、
違う世界で生きている人の話がとても新鮮だった。

そんな彼女が、
今は「家でゆっくりとしていたい」と言う。
気のせいか、少し目じりに小ジワも増えたような。

わかる。わかるよ。
ゆっくりとしていたいよね。
でも、少しだけ寂しかった。

僕の知り合いの中では
一番若い部類に入る彼女でさえ、
やはり年齢には勝てないんだな、って。
 
 
 
   「なんでしょうね。
    色んなことが面倒になりますよね。
    体が疲れているのか、心が疲れているのか…」
 
 
 
僕がそう言うと、
彼女は「ですよね〜」と微笑みながら
少し遠くを見つめた。

美容師一人と、お客が一人。
二人しかいない小さな店に、
少しの間沈黙が流れた。

BGMのスピーカーからは、
懐かしいクリスマスソングが流れていた。
マライア・キャリーの声が優しく静かに響いた。
 
 
 
 「あ、まだ時期的に早いかな?と思ったんですけど、
  チャンネルにあったから、
  なんとなく流してみたんですよね」
 
 
 
   「いいんじゃないですか。
    クリスマスソングは年中聴いても飽きないし。
    この曲聴くと、ドラマの
    『29歳のクリスマス』を思い出しますわ」
 
 
 
そう言って、あとは懐かしい昔話をした。

髪型をオーダーしたかどうかも覚えていないけど、
いつのまにかイメージどおりに
カットが仕上がっていた。さすが。
 
 
 
 「ありがとうございました。
  次のご来店は、年明けですかね?」
 
 
 
   「たぶん、そうでしょうね。
    えーっと、
    よいクリスマスと、よいお年を」
 
 
 
そう言ってから、おじぎをして店を出た。

とても癒される時間だったけど、
また数カ月、彼女と会うことはない。

年明けに訪れたら、
今度はどんな話をしようか?
土産話を用意しておかなきゃな。

僕には、実家や自宅以外に帰る場所がある。
その存在を大切にしながら、
ジジイになるまで通いたい。