No.1860 駅前にあったカメラ屋のおじさん

悔しいけれど、
写真が好きになったのは親父の影響だ。
手早くレンズを替えたり、
フィルムを交換するその仕草がカッコ良かった。

あともう一人、
影響を与えた人と言えば
「カメラ屋のおじさん」かな。

僕の実家は電車の駅が近くて、
駅前には行きつけの店がいくつかあった。

行きつけの書店、行きつけのスポーツ店、
そして、行きつけのカメラ(写真現像)屋さんだ。

小1の時に引っ越してきて以来、
そのカメラ屋さんにはよく通った。
最初の頃は、親父が撮ったネガフィルムを預かり、
カメラ屋のおじさんに渡すだけ。

でも、カメラ屋のおじさんと話しているうちに、
だんだんと自分で写真を撮りたくなってきて、
いつからか僕が撮影した写真の現像をお願いするようになった。

カメラ屋さんというのは、
お客から預かった写真を見ていないようで
実はちゃんと見ている。

たまにいい写真が撮れた時、
「上手になったねぇ」と
おじさんに誉められるのがうれしかったなぁ。

最後に現像をお願いしたのは、
高校の卒業式の写真だっただろうか。

その時おじさんが笑みを浮かべて言った言葉を、
僕は今も忘れていない。

 「あんなに身体の弱かった子がねー。
            大きくなったねー」

当たり前だけど、忘れていた。

毎日会っているわけじゃないけれど、
おじさんは、ある意味で
僕の成長をずっと見守ってくれていた人なのだ。

運動会の写真、野球の試合の写真、
中学入学の写真、修学旅行の写真、卒業式の写真…etc.
写真の中で徐々に大きくなっていく僕の姿を、
おじさんはどんな気持ちで見守ってくれていたんだろう。

実家を離れ、デジカメ時代になったこともあり、
おじさんの所へ行くこともなくなったけど、
今撮った写真を見せたらおじさんは何て言うかなぁ。

シャッターを押すたびに、
今でもあの笑顔が浮かんでくる。