No.1695 トイレで見つけた秘密の言葉

僕の通っていた小学校は海の近くで、
たまに授業やプチ遠足のような活動で
海辺の公園に出かけることがあった。

公園についたら、
出席番号順のグループ(男女混合)に分かれて行動。
何をしていたのかは忘れたけど、
グループで自由行動をするのが一番楽しかった。
みんなで公園を探検しているみたいだったから。

何年生の時だったかな。

自由行動の途中、
僕らのグループメンバーだった女の子が
公園の女子トイレで落書きを見つけた。

便所の壁に書いてあった言葉は、
学校では習ったことのない言葉だった。
みんなで「これってどういう意味なんだろう」と考えたけど、
知らないものはわかるはずもない。

わからないことが、悔しくはなかった。
むしろ、なんだかみんなですごい遺跡でも
発見したかのような気分になって。

「俺たちだけの秘密にしようや」と誰かが言った。

その字面だけを忘れないように覚えて帰り、
学校に帰った僕らはドキドキしていた。

だって、他のグループには
言えないものを見つけてしまったから。

放課後にもう一度みんなで集まり、
「それぞれあの言葉を家で調べること」という
約束をしてから解散した。

その日の夜、メンバーの女の子から
家に電話がかかってきた。

 「もしもし、わかった?」

    「うん、でも、お母さんに怒られた」

 「なんで?」

    「そんな言葉覚えちゃダメだって」

それでもしつこくお母さんに聞いて、
なんとか意味を教えてもらったそうだったが、
その意味を彼女は僕に言いにくそうにしていた。

それは俗にいう、
卑猥な意味の言葉だったから。

彼女に意味を教えてもらって、
電話の前で顔が真っ赤になった。

    「ね、言いにくいでしょ」

と彼女は笑った。

僕たちは、その言葉の意味を
二人だけの内緒にすることにした。

言葉を見つけたことはメンバーだけの内緒。
その意味を知ったことは二人だけの内緒。
二重のベールに、僕たちはどれだけドキドキしたことか。

次の朝、学校に行っても他のメンバーは
誰も親から意味を教えてもらえていなかった。
「おまえらは?」と聞かれたけれど、
僕と彼女も知らないふりをした。

結局僕らはそのまま卒業を迎え、
彼女は佐賀県に引っ越していった。

しばらく文通をしている時、
便せんにその言葉を書くのが二人の合言葉だった。

今考えれば、おかしな手紙だったと思う。