No.517 狼少年は街を行く
「狼が来た。狼が来た。」
何度もそんなウソをついているうちに、
本当に狼が来た時に信じてもらえなかった“狼少年”。
もしも彼が今の時代に生きていたら、
いったいどうなっただろう?
「今日、オマエが乗る飛行機でテロが起きるぞ。」
「牛肉食べたら死ぬらしいぞ。」
慌てふためく、人々。
それを見て、黒い満足感を得る狼少年。
実は最近、今のこの時代にも
狼少年が沢山生きているような気がする時があるんだ。
あくまで童話の中の話に過ぎないけれど、
狼少年は、この世で初めて「情報戦」を用いた男だ。
たしかに、大衆を動揺させるのは簡単だろう。
人間が発した言葉とは、それほどの威力があるのだから。
ただ、彼、いや、彼らの頭の中に、
事の終末は描かれているのだろうか?
本当に狼がやって来た時、狼少年は、
自分も「狼におびえる大衆の一人」であることを知った。
遅すぎる気づきではあったけれど。
今、デマを流して楽しんでいる人間も、
よくよく考えれば大衆の一人であることに気づくはず。
人間は、自分一人では怖さに勝てないから
心を一つにして一致団結する。
それを崩すのは簡単なことかもしれないけれど、
それを崩すことで「一人では勝てない何か」と
闘う覚悟は出来ているのだろうか。
誰かを落としてやろうと深い穴を掘った人間は、
その穴に生き埋めにされるリスクも
考えておかなければならない。
童話の中の狼少年。
絵本を飛びだし、そのキャラクターだけが
一人で街を歩き始めている。