No.1064 2004年の大みそか@謎のホテル

大みそかは雪だった。
 
大阪の高速もストップしてたので、
神戸まで一般道を走り、
ポートアイランドにある某ホテルに到着。
 
2004年の年越しは、なぜか家族揃って
ホテルで過ごすことになっていた。
 
姉夫婦とうち夫婦が実家に帰ったら
「狭くなる」という親父の一言で。
 
ホテルに到着して、
かなり久しぶりに両親と姉夫婦、甥の優太郎と再会。
去年までだっこにおんぶの四つ足歩行だった優太郎が、
二足で立っていることに少し驚いた。
 
しかし、それ以上に驚いたのは、
ホテルのうさんくささだ。
 
フロント近くには、北欧から無理矢理連れて
きたかのような白人のホテルマン。
オドオドとしたその振る舞いは、
これからの宿泊を不安にさせるのに十分な印象だった。
 
チェックインをしてエレベーターの前に行くと、
ワープロで作ったかのような貼り紙が1枚。
 
 
 
   カウントダウン仮装パーティーへようこそ!
 
 
 
その陳腐さと、貼り紙全体から醸し出される
「この企画に半年かけました」的な必死感に、
僕のドキドキは徐々に落胆へと変わっていった。
ほかのみんなは、笑っていたけれど。
 
 
 
夕食時。嫌な予感がしながら、
「ディナー会場」と書かれた大広間に足を踏み入れる。
 
 
 
 「今夜の夕食はただの夕食じゃない。
  今年をしめくくる最後の夕食、総決算夕食だ」
 
 
 
そんな期待を真っ向からカチ割るように、
待っていたのは
ビジネスホテルの朝食並みのバイキング…。
 
はじめての外泊にテンションが上がる優太郎と、
目尻の下がりっぱなしの両親、
わりと楽しんでいる様子の姉夫婦、嫁。
 
それはそれで幸せそうな家族の表情を見て、
とりあえず不安を笑い飛ばして楽しむことにした。
 
 
 
ヤケ酒ぎみに親父と3本ほどビールを空けた頃、
突然地方テレビのバラエティ番組で流れてそうな
三流の洋楽が大音量でスピーカーから鳴りだした。
 
 
 
  「イエーイ、今日はみなさんありがとうございます。
   只今より、マジシャンの○○○○によるテーブルマジックを
   みなさんにご披露したいと思います。どうぞお楽しみください」
 
 
 
出てきたのは、リクルートスーツに身をまとった
これまた三流っぽいマジシャン。
 
自信なさげにトランプでマジックを披露する彼の背中に、
「日給6000円」という文字が見えた気がした。
 
もう、こうなったら飲むしかない。
 
 
 
 「おーい、日本酒だ。日本酒!」
 
 
 
近くのスタッフにそう声をかけようとしたら、
スタッフはなぜか顔が真っ青。
目もうつろでテンぱっていたので、
かわいそうになってオーダーをやめた。
 
なんなんだ、このホテルは。
でも、なぜこの中途半端なホテルに
こんなに宿泊客がいるんだ。
 
 
 
周りを見渡せば、意外と楽しんでいる客ばかり。
目の前の我が家族も、わりと楽しそう。
 
 
 
 「ま、いっか。笑って年越しだ」
 
 
 
こうして、海のような広い心を持ちながら、
僕の2004年は暮れていった。